DIABETES NEWS No.107
 
No.107 2008 November/December

経口糖尿病薬の作用特性
 経口糖尿病薬は、現在5種類に大別されます。古くから使用されているスルホニル尿素薬とビグアナイド薬は、それぞれインスリン分泌促進作用(膵作用)とさまざまな膵外作用をもつ薬として、単独または併用で使われてきました。1990年代半ばに、糖質の吸収を遅延させることによって食後高血糖を改善するαグルコシダーゼ阻害薬が登場し、食後高血糖に対する理解が一段と深まりました。次に登場したチアゾリジン薬は、インスリン分泌不全と並んで2型糖尿病患者さんの病態の特徴であるインスリン抵抗性を改善することにより、血糖コントロールを改善する経口薬です。チアゾリジン薬の登場によってインスリン抵抗性の機序解明が著しく進みました。最も新しい経口薬の速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)は、SU薬の基本構造はもちませんが、膵β細胞膜に存在する SU受容体に結合して、インスリン分泌を速やかに促進する薬です。

経口糖尿病薬の使い分け
 2型糖尿病患者さんの治療にあたっては、それぞれの病態に応じた適切な経口薬を用いればより良いコントロールを達成できるはずですが、実際には、理屈通りにはいかず、コントロールが改善しない場合も少なくありません。「糖尿病治療ガイド」では、2型糖尿病の病態の特徴を図示し、それぞれ適切と思われる薬剤の選択が示されています。しかし、ADA や EASD の2型糖尿病治療のコンセンサスに書かれている「まず第一にビグアナイド薬を投与する」というような単純な指針は示していません。今後、日本人のエビデンスをもとに、より具体的な指針を提示する必要があると思います。

経口薬治療の進め方の原則
 経口薬が作用を発揮し、効果を示すには、前提として食事療法と運動療法の励行が重要です。また、経口薬の適応となる2型糖尿病患者さんの治療では、ただちに血糖を低下させなければならない場合は少ないので、治療開始にあたっては、まず少量からを原則とすべきです。
 経口薬の併用も多くの患者さんで行われています。しかし、2剤以上の経口薬をはじめから併用投与することは避ける方がよいと思います。3剤併用、ときには4剤併用などを試みる場合もありますが、コントロールが得られない場合には漫然と経口薬治療を続けることは避け、早めにインスリン療法を開始することが大切です。
 


 2型糖尿病はよく遺伝しやすいといわれますが、病気そのものが遺伝するのではなく、「糖尿病にかかりやすい体質」が伝わると考えられています。
 では、その体質はどのようにして決まるのでしょうか? また糖尿病にかかりやすい体質があると必ず糖尿病になるのでしょうか?

糖尿病にかかりやすい体質と遺伝の関係
 体質、容姿などを含めた「その人らしさ」は遺伝子の多様性によって決まると考えられています。
 遺伝子はA(アデニン)、C(シトシン)、T(チミン)、G(グアニン)の4種類の塩基の配列によって作られており、一人当り 60億の塩基を持っています。他人と比較すると遺伝子の配列は驚くほど一致していますが、数百個に1個の割合で、Aである場所が他人ではTに換わっているような箇所があります。この部分が遺伝子の多様性を示すところで、遺伝子多型(SNP:single nucleotide polymorphism)といいます。
 SNP は一人当り 300万から1000万個あると考えられています。ある遺伝子の SNP が2型糖尿病と関連すると、その遺伝子は2型糖尿病感受性遺伝子と呼ばれます。我々はその遺伝子の糖尿病にかかりやすい SNP か、かかりにくい SNP のいずれかを持っていることになります。
 ただし、2型糖尿病は1種類の遺伝子/SNP だけでは決まらないこともすでに知られており、糖尿病に関係した SNP 全体のうちで、かかりやすい SNP を何個、かかりにくい SNP を何個持っているかによって、「体質的な糖尿病のかかりやすさ」が決まるといわれています。最近の研究では10数個の SNP が報告されています。

2型糖尿病の予防は可能
 たとえ「糖尿病にかかりやすい体質」をもっていても、その体質だけで確実に糖尿病が発症するわけではなく、運動不足や過食を代表とする環境要因が加わってはじめて糖尿病が発症します。
 実際に、「かかりやすい体質」があっても生活習慣の改善によって、「なりにくい体質」の方と同じ程度に糖尿病の発症を抑制できたという報告が最近発表されました。「糖尿病にかかりやすい体質」を持っていても、生活習慣を改善することによってその体質をカバーすることができる、つまり糖尿病の予防が可能であることが示されたわけです。

生活習慣の改善が一番
 私たちの身体はエネルギーをできるだけ節約し、蓄えておくようプログラムされています。これは人類が飢餓の時代を乗り越えてきた証拠でもあります。そのため、現代社会のような飽食の環境では、逆に肥満になりやすく、糖尿病を発症しやすいのです。
 アメリカでは人口の 2/3 が日本でいう「肥満」といわれ、日本でも肥満の増加が問題になっています。気がつかないうちに便利なもの、楽な道を選んでいませんか? エスカレーターではなく階段、車ではなく電車、テレビでなく散歩、など生活習慣を見直す機会はたくさんあります。毎日30分以上歩くなど運動量を確保し、必要以上に食べないよう心がけましょう。
 また、食べ物の中身についても考え、油の多い料理を控え、繊維類の豊富な食材を選びましょう。肥満を是正し、自分の意思で生活習慣を変えることにより、糖尿病への道を閉ざすことができ、既に糖尿病であってもコントロールをよくすることができるのです。
 


 血糖コントロールとともに合併症の診断と治療を任せていただいているのが糖尿病センター病棟スタッフです。病棟では医師、看護師、栄養士、薬剤師が医療チームとして診療、療養指導に当たっています。糖尿病認定看護師や糖尿病療養指導士の資格を持ったスタッフが多いので、若い医師の研修にも心強いところです。

糖尿病センターの入院システム
 内科入院と眼科入院があります。内科入院には短期教育入院と一般入院があります。短期入院は血糖コントロールを主目的とした1週間の期日の決まった入院です(103号参照)。昨年度から短期入院にもクリニカルパスを導入いたしました。入院中の診療計画が事前に明確に説明でき、簡便で行いやすいシステムとなりました。
 一般入院は主に合併症治療のための入院です。当センターのみならず、他院からの紹介入院も少なくありません。
 眼科入院は白内障(クリニカルパス導入)や硝子体手術など眼合併症の治療目的に入院されます。眼科入院であっても手術中を含めすべての内科的管理を内科主治医が行っていることは他院にはない当センター独自のシステムです。

入院患者さんの現状
 2007年6月~2008年6月の間に約1,330名の方が入院されています。糖尿病性血管合併症を有する患者さんは約90%になります。白内障手術が月平均30件、硝子体手術が月平均12件行われています。慢性腎不全の治療目的の患者さんは約130名、血液透析目的の動静脈シャント作成手術および腹膜透析のカテーテル挿入術が月平均5件行われています。透析中患者さんは123名で、月平均9名の方が糖尿病センター病棟で透析を受けているということになります。足壊疽の外科手術が月平均1、2件あり、肺炎や蜂窩織炎といった重症感染症の治療で入院した方が月平均2名でした。実際には、透析をしながら足壊疽の治療をする方や、慢性腎不全の治療をしながら硝子体手術を受ける方も少なくありません。
 以上のように、糖尿病センター病棟には合併症の治療目的に入院する方が多く、糖尿病合併症治療病棟といっても過言ではありません。日常の血糖コントロールがいかに重要かということを日々痛感させられます。また、入院患者さんの高齢化に伴い、在院期間がやや長くなりつつあります。

血糖コントロールにおける入院加療の位置づけ
 仕事や子育てで忙しい働き盛りの年齢層の方は、血糖コントロールが二の次になることが多く、外来ではよい血糖コントロールが得られないことが少なくありません。最近は両親の介護のため自分のことに気を配る余裕がなく、血糖コントロールが不良になる方も少なくありません。
 入院生活は、ある意味で世間から隔絶されていますので、食事療法や運動療法に専念することができます。日常生活ではよい血糖コントロールができない方も、実生活を見つめ直すきっかけになります。大切なのは、本人がコントロールを良くしようとする意思があることです。
 なんとか良くしたいという方には、病棟スタッフが入院中に行っている退院後の生活に向けての指導がお役に立てると確信しています。外来通院でなかなかコントロールが良くならない場合には、是非一度入院を考えてみられてはいかがでしょうか。
 

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