DIABETES NEWS No.101
 
No.101 2007 November/December

日本糖尿病学会設立50周年記念行事
 日本糖尿病学会は、学会設立50周年を記念して、記念式典・講演会、記念国際シンポジウム、ならびに50周年記念誌の発行をめざして準備を進めてきました。本誌ですでに一度ご案内していますが、目前に迫りましたので、あらためて記念式典・講演会と国際シンポジウムの内容についてご紹介します。

記念式典・講演会
 記念式典・講演会は、学会員に向けて11月10 日(土)午後3時から、東京国際フォーラムホールCで開催されます。ご来賓のご挨拶のあと、学会設立当初から今日まで50年間にわたって学会員として活躍された方々を永年功労者として表彰いたします。
 記念講演会では、日本糖尿病学会50年の歴史をふり返って、小坂樹徳先生(名誉会員)が講演され、ひき続き、IDF(国際糖尿病連合)会長の Silink 先生が糖尿病撲滅に向けた IDF の活動について、さらに、米国ジョスリン糖尿病センターの Kahn 先生が米国糖尿病学会(ADA)とジョスリン糖尿病センターの歴史について講演されます。日本糖尿病学会50年、発展の節目を記念するのにふさわしい講演会になると思います。講演会にひき続き、祝賀会が開かれます。

記念国際シンポジウム
 記念国際シンポジウムは、翌11月11日(日)午前9時から、同じく東京国際フォーラムホールCにて、国内外から11名の著名な糖尿病研究者をお招きして開催されます。
 Silink 先生は、糖尿病対策の世界戦略について、Bell 先生と Todd 先生は、それぞれ2型糖尿病、1型糖尿病の原因遺伝子について最新の知見を報告されます。糖尿病の合併症に関する大規模試験については Tuomileht 先生と Haffner 先生が、糖尿病とインスリン作用については Kahn 先生と春日雅人先生が講演されます。
 午後には、糖尿病性大血管症と細小血管症について King 先生と Brownlee 先生が、さらに、メタボリックシンドロームとその予防について Kelley 先生と Borch-Johnsen 先生が最新の考え方を発表されます。
 最後に、全ての演者による、糖尿病の予防、糖尿病合併症の予防、今後10年間の研究の動向、若手研究者・医師への糖尿病研究参入への誘い、糖尿病対策における行政の支援などについてパネル討論会が行われます。
 糖尿病診療・研究の幅広い分野について、世界から最先端の研究者を一堂にお招きして討論する機会は、日本の糖尿病専門医、研究者にとって、大変貴重な機会です。シンポジウムは同時通訳が入りますので、記念式典・講演会と合わせて多くの皆様のご参加をお待ちしています。
 


まだエビデンスが少ない経口血糖降下薬
 現在多くの経口血糖降下薬が使われています。治験や臨床実績から、どの薬も血糖改善作用があることは間違いありません。しかし、我々が薬を使うのは単に血糖改善効果だけではなく、細小血管症(神経障害、腎症、網膜症)や大血管症(脳血管障害、心血管障害など)が抑制され、良好な QOL が維持されることを期待するからです。そして、この期待は市販後の大規模臨床試験などによって証明する必要があります。しかし、もっとも信頼できるエビデンスが得られるランダム化比較試験は莫大な費用と数年の期間がかかるので、すべての薬物で実施されているわけではありませんし、発売後間もない時期はどの薬にもエビデンスはありません。エビデンスがない場合は、病態に最も適した作用機序を有する薬物を選択して治療することになります。

インスリン抵抗性に適したチアゾリジン薬
 2型糖尿病は世界的に増加していますが、その主たる原因は、栄養過多や運動不足が進み、内臓脂肪型肥満によるインスリン抵抗性が強くなっているからです。インスリン抵抗性改善作用を有するチアゾリジン薬はこれらの病態を改善する理想的な作用機序を有しており、動物実験などの基礎的検討からも、大血管症の抑制が期待できる成績が数多く報告されています。チアゾリジン薬については、日本ではピオグリタゾン(商品名:アクトス)だけが使われていますが、欧米ではより早く発売されたロシグリタゾン(商品名:Avandia)が多く使われていました。特に欧米人は非常に肥満した2型糖尿病の方が多いので、日本よりずっと多くの方にチアゾリジン薬が投与されています。
 ピオグリタゾンに関しては、2005年に大血管症を抑制するという PROactive 試験の成績が発表されました。この結果を受けて、チアゾリジン薬はますます多く処方されるようになっていました。

ロシグリタゾンは心血管障害を増加させる?
 ところが、ロシグリタゾンに関して、心血管障害とそれによる死亡を増加させるという論文が本年6月の New England Journal of Medicine 誌に発表され、世界中に大変な衝撃を与えました。幸い日本ではロシグリタゾンが使われていなかったので影響は少なかったのですが、欧米ではロシグリタゾンの処方が激減しました。この論文は、大小42の臨床試験を総合的に解析するメタアナリシスという手法で解析されたものですが、7月には大規模臨床試験の中間報告も同じ New England Journal of Medicine 誌に発表されました。中間報告の骨子は、ロシグリタゾンとプラセボには心血管障害や死亡に有意差がないというものでしたが、ロシグリタゾンの方がやや悪い傾向にあるようにも読み取れました。その後コクラン調査や米国 FDA、アメリカ内科学会誌から矢つぎ早に支持、不支持両方の報告が出ました。どうしてロシグリタゾンで心血管障害が増加したのか正確な機序は不明ですが、ピオグリタゾンが脂質改善作用を有するのに対して、ロシグリタゾンは脂質のデータをやや悪化させるためではないかと考えられています。

すべての経口血糖降下薬で日本人のエビデンスが必要
 同じ系統の薬物でも臨床試験の結果が異なることがありうるという結果が出た以上、臨床使用されている薬物ひとつひとつに対してエビデンスが求められることになると思われます。2型糖尿病の病態が人種によって大きく異なることを考えると、日本人のエビデンスが望ましいことはいうまでもありません。しかしながら、前述のようにランダム化比較試験による大規模臨床試験の実施が困難な現実を考えると、大規模なコホート調査やデータベースを用いるなどによってエビデンスを得る方法なども検討する必要があると思います。今後、全国の専門医や日本糖尿病学会を挙げて議論すべき大きなテーマであると思います。
 


偉大な研究者の生涯を知る本
 1921年にカナダで発見されたインスリンがいかにして糖尿病患者さんに使われるまでになったか、そこにはデンマークの H.C. Hagedorn(ハーゲドン)先生の一生をかけた努力がありました。この本は、デンマークの Steno DiabetesCenter(ステノ糖尿病センター)のデッカート先生が「今書き記さねば!」という強い意思のもとに、ハーゲドン先生の出生から血糖測定法やプロタミンインスリンの開発、亡くなったときの遺書にいたるまでを書き記したものです。研究者としてだけではなく、恋愛、家族とのかかわり、恩師との葛藤など、偉大な研究者であるとともに非常に人間的な喜怒哀楽を持った人柄をも知ることができます。
 ハーゲドン先生の人生をたどっていくと、必然的に糖尿病治療の歴史をたどることになり、たとえば約100年前というそんなに遠くない時代に、糖尿病患者に絶食療法などが行われていたことに驚かされます。ハーゲドン先生の努力が、現在の糖尿病患者さんの治療にどれほど貢献しているかが非常に良くわかります。医師であるハーゲドン先生の伝記ではありますが、出てくる内容は糖尿病関連のものばかりで、糖尿病患者さんにとっても身近な用語ばかりが使われ、難しい研究の内容も比較的理解しやすいと思いました。

ルネッサンス的人間の全貌が明らかに
 デッカート先生は、"ハーゲドン先生はルネッサンス的人間、圧倒的な存在感を放ち、深い教養と多方面にわたる該博な知識を誇る全人的人間であり、その風貌をひと目みたものには忘れがたい印象を残すとともに、論争相手として恐れられた人物でした。(中略)歴史のベールに覆い隠され、他人の野心によってその人物像が歪曲されてしまう前に、その業績と人物像を描いておく時期がそろそろやってきたのではないでしょうか。"(「はじめに」より抜粋)と書いておられます。デンマーク語で書かれた後すぐ英訳されました。デッカート先生と懇意の前東京女子医科大学糖尿病センター・センター長の大森安恵名誉教授が、アテネの学会でデッカート先生とお会いしてこの本の存在をお知りになり、翻訳して日本の糖尿病を学習する人たちに役立てたいと決心なさって、情熱を込めて翻訳され、このたび完成に至りました。糖尿病を専門とする医師やコメディカル、糖尿病患者さんだけではなく、幅広く多くの方に読んでいただきたいと思います。
 ステノ糖尿病センターに留学し、このたびの翻訳・出版にあたって、横山、中神、柳沢医師とともにお手伝いさせていただきましたひとりとして、私個人的には、「研究とは宇宙の美しい秩序を垣間見せるものであり、病に苦しむものに必要な手段を提供することにある。患者の命にかかわるインスリンを競争の対象に堕落させてはならない。」というフレーズに感動しました。

「ハーゲドン 情熱の生涯―理想のインスリンを求めて―」トルステン・デッカート著、大森安恵・成田あゆみ訳、税込価格:¥4095(本体:¥3900)、時空出版、ISBN:978-4-88267-042-1

東京女子医科大学糖尿病センターセミナー
1999年度ミス・アメリカ再来日!
日時2007 年11月26 日(月) 開場18:30 開演19:00
会場東京女子医科大学 弥生記念講堂
〒162-8666 東京都新宿区河田町8-1
都営地下鉄大江戸線「若松河田」駅下車 若松口から徒歩5分
演者1999年度ミス・アメリカ Nicole Johnson(ニコール・ジョンソン)

 ニコール・ジョンソンさんは、19歳で1型糖尿病を発症しましたが、その後ミス・バージニアを経て「1999年度ミス・アメリカ」になりました。以来、世界各国を訪問し、糖尿病の啓発・予防、そして早期診断を促進するために糖尿病患者を代表する立場として様々な活動を行っています。
 米国の国立衛生研究所主催の患者代表会議、米国糖尿病協会主催の患者団体アドバイザリーボードなど、様々な委員会のメンバーとしても活躍しています。糖尿病の研究やプログラムのための資金集めにも9年にわたり貢献しています。
 また、2006年2月に女児を出産されました。

 ★参加費は無料です。事前の申し込みも不要です。お気軽にお越し下さい。

問い合わせ先:東京都港区南青山1-1-1 新青山ビル 日本イーライリリー株式会社内
ニコール講演会事務局 Tel:03-3470-8210
[担当]安達・橋本(受付時間10:00~16:00)
共催:東京女子医科大学糖尿病センター
日本イーライリリー株式会社

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