DIABETES NEWS No.1
    No.
     1985 
     SPRING 
 
発刊にあたって

 何千年もの昔、ギリシャの医学者デメテリウスは、糖尿病を表す"ディアベテス"という言葉を作りました。ディアベテスとは、液体が流れ出るという意味です。これを、このパンフレットの名前に使いました。
 かつてわが国では、"きわめてまれ"とされていた糖尿病は、"きわめて多い"病気となり、国民病といえるほどに増加を示しました。すなわち、その数250万人と推定されています。
 また、かつて"肥満していて、のどが乾き、尿に糖が出る"といった比較的おだやかなイメージにとどまっていた糖尿病は、年齢層が広がり、病気にかかってからの期間が長くなるにつれて、"失明、尿毒症、エソなどの主原因となり、心筋梗塞の重要な原因疾患"として考えざるをえない状態となって来ました。
 これに対して近代医学は、その予防と治療の可能性を求めて各種の進歩をとげて来ました。そのなかでも、医療スタッフ同志の綿密な連絡医療スタッフと患者およびその家族さらに環境との連帯、の重要性を浮きぼりにしました。
 たとえば、1人の小児糖尿病児の成長を考えてみますと、1人の医師のみで全ての治療をカバー出来るものではないことが分かります。本人はもちろん、小児科や内科のホームドクターと専門医、ナース、ケースワーカー、栄養士、家族、学校教師など、数えあげてみますと実に多数の人々の協力が必要になります。
 このたび Diabetes News(季刊)を発行する目的は、このように多様化し重症化した糖尿病に対して、患者さんも含めて治療に関与する各パートの連絡をより綿密にし、治療効果をあげることにあるといえます。
 この目的達成のために、各方面からの御声援、御助言を心からお願いしてやみません。

1985年3月
 
東京女子医大糖尿病センター
 所  長  平 田 幸 正
 

 
糖尿病性網膜症の
 内科と眼科の共同管理
糖尿病眼科主任 
亀 山 和 子
 
 

糖尿病による眼の変化―網膜症の発症
 合併症をもった糖尿病患者が増加している今日、重症な糖尿病性網膜症も増え、このための失明者が増加しています。
 集団検診の普及により、糖尿病の早期発見が可能になりました。糖尿病性網膜症は、糖尿病の初期から出現するものではなく、数年の罹病期間を経て発症するものです。しかも、患者さんの中には、糖尿病や網膜症に罹っても自覚のないことが多いのです。したがって、糖尿病の発見と同時に、網膜症の有無を眼科医によってチェックすることは治療上大切なことです。また、網膜症のあることにより、糖尿病の発見されることもあります。したがって、内科医と眼科医が常に密に連絡をとって、両面から治療にあたることが必要となってきます。
 糖尿病の治療をはじめたら、急に眼が悪くなったということを時々耳にしますが、このような事態は、極力避けるようにしなければなりません。網膜症の程度によって糖尿病の治療法が異なることも一つの例です。

重症の網膜症への対策
 増殖性網膜症のある場合には、10年近い病歴が考えられます。この変化の早い時期は、眼科的に網膜光凝固術の適応期です。また、内科的にも他の合併症の出現していることが多く、血糖の管理もむずかしい時と思われます。光凝固の効果の良否が、内科的管理に左右されることも珍しくありません。かつては、進行した増殖性網膜症に対しても内科的治療が唯一の方法でしたが、光凝固を最適期に行えば90%以上の網膜症が改善されるとさえいわれます。不幸にして硝子体出血や高度の増殖性網膜症へと進展し網膜剥離を生じたような症例でも、その最適期に硝子体手術を行うことにより、失明を予防することが可能となります。
 将来は、内科的管理により、糖尿病性網膜症の発症しない時代が来ることでしょう。しかし、糖尿病性網膜症の増加している今日では、治療の時期を失しないよう最適期をとらえ、最良の治療法を行うことが大切な問題であり、眼科医の使命と考えます。このためには、糖尿病を管理している内科医との協力が絶対に必要条件となります。

自覚症状の出る前に
 患者さんが、視力障害を自覚してから眼科で受診する数はまだ多いようです。自覚症状の出現した時は、かなり進行した網膜症であることが多いということを念頭において、全身状態に応じて定期的な眼底検査を行うことが重要です。網膜症のある患者さんに対しては、眼科医も常に全身状態を把握し、内科医も網膜症の状態を知って治療にあたる診療が必要です。現在、眼底に変化はなくても、1年に1回の眼底検査をお願いしたいと思います。
 

 
小児および若い人の糖尿病
若年者部門責任者 
笠 原 督
 
 

遺伝学者の悪夢
 現在、日本における小児糖尿病の頻度は、小児人口6,000人に1人の割合です。
 当センターでは、現在30歳以下発症のインスリン依存型糖尿病者270名、30歳以下発症のインスリン非依存型糖尿病者440名を含め、30歳以下で発症した糖尿病者として約900名を経験しています。

小児・若年期糖尿病に特有な問題
 小児・若年期における糖尿病は、成人糖尿病における諸問題以外に、特有の医学的および社会的問題を含んでいます。
 小児期は発育期にあたるため、熱量制限を主とする成人に比べ、むしろ充分に熱量が必要で、治療も成人に比べ困難です。次に、若年期には、患児は上級学校への進学、就職、さらには結婚、妊娠、出産などの社会的な数多くの関門を通らなければならず、各過程において対処すべき種々の問題をかかえています。
 また、コントロール不良のまま罹病期間が10年以上になると、糖尿病に特有な合併症が出て来て、失明の危険や血液透析を必要とする患者さんが増加して来ます。これらをのり切るためには、小児科・内科・眼科・産婦人科医、その他のスタッフの連絡が必要になります。
 一方、患児たちは、自分が糖尿病であるため、周囲から特殊に扱われ、そのため依存心が強くなりがちです。まず自分で自分を管理できるように、血糖の自己測定やインスリン自己注射を教育します。また、両親の教育もぜひ必要となります。何よりも、治療への動機づけが大切になります。この際、心理学者による適切なカウンセリングも必要となることが少なくありません。さらに、各年齢において栄養士による充分な栄養指導も必要となります。

小児・若年糖尿病外来の現況
 私どもの対応としては、小児・若年糖尿病外来を毎週土曜に開いています。とくに第2、第4土曜は、学校、職場を休むことなく指導を受けられるように、早朝からオープンしています。
 この診療の中で、血糖の自己測定の指導や、栄養指導さらに必要な眼科的検査を行ったり、生活上の問題についての相談を受けています。
 小児から成長した"若年者糖尿病"の管理では、昭和55年9月「ヤングの会」が発足し、相互の親睦、生の知識の交換などに役立っています。毎年夏には1泊の研修旅行に出かけるほか、春または秋の研修旅行、ヤング・クリスマスパーティーなどを行っています。

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