3月1日より糖尿病・代謝内科学分野の教授・基幹分野長を拝命しました、長尾元嗣です。Diabetes Newsを初めて執筆するにあたり、大変緊張しながら筆をとりました。まずは、1975年に東京女子医科大学糖尿病センターを設立され、その礎を築かれた平田幸正教授をはじめ、教室の診療・教育・研究を支えてこられた先生方、メディカルスタッフの皆さん、そして患者さんに心より感謝申し上げます。
糖尿病センターが設立された当時、糖尿病治療の選択肢は、動物インスリン、第一世代SU薬、ビグアナイド薬など限られており、現在のような精密な血糖管理は望めませんでした。そのような時代に、多職種が連携して患者さんを支える「糖尿病センタ-」という新しい診療体制を構築された平田教授の先見性には、あらためて深い敬意を抱いております。
Diabetes Newsは、その10年後の1985年に創刊されました。創刊号で平田教授は、「患者さんも含めて治療に関与する各パートの連絡をより綿密にし、治療効果をあげること」を本誌の目的として掲げられています。この理念は40年以上を経た現在も変わることなく、本誌は患者さんと医療者、多職種をつなぐ架け橋として歩み続けてきました。
インターネットやAIの普及により、医療情報は誰でも簡単に入手できる時代になりました。しかし一方で、正確な情報を見極め、自分自身の医療にどう生かすかは、以前にも増して難しくなっています。だからこそ、Diabetes Newsにはこれまで以上の役割があると考えています。本誌の記事は、日々患者さんと向き合う医療者自身が執筆しています。エビデンスに基づく情報だけでなく、診療現場で感じた課題や経験、そして患者さんへの思いも込めて発信できることが、本誌ならではの価値です。
今後はホームページを中心とした配信へ移行し、写真やイラストも取り入れながら、よりタイムリーで親しみやすい情報発信を目指します。媒体の形は変わりますが、「患者さんと医療者を つなぐ」という創刊以来の理念は変わりません。
現在、私たちは糖尿病だけでなく、肥満症、低血糖症、脂質異常症など幅広い代謝疾患を診療しています。また、糖尿病診療そのものも、血糖値を管理する医療から、合併症を予防し、健康寿命を延ばし、さらには寛解を目指す医療へと発展しています。こうした時代の変化の中で、私が目指したい診療科の未来像を表す言葉が 「Beyond Diabetes」 です。これは糖尿病を超えるという意味ではありません。糖尿病医療を原点としながら、その先にある患者さんの人生、代謝医療全体、そして未来の医療へ挑戦していくという決意です。そのために、私は三つのことを大切にしたいと考えています。
一つ目は Research。診療の現場で生まれた疑問を研究へつなげ、新しい診断法や治療法を創り出し、再び患者さんへ還元すること。
二つ目は Team。医師だけではなく、看護師、栄養士、薬剤師、臨床検査技師をはじめ、多職種が互いの専門性を尊重し、一つのチームとして患者さんを支えること。
三つ目は Patient。病気だけではなく、その病気とともに生きる一人ひとりの人生に寄り添い、それぞれにとって最善の医療をともに考えること。
研究が未来を創り、チームがその成果を患者さんへ届ける。そして、その積み重ねが患者さんの人生を支え、医療者を育て、次の研究へとつながっていく。そのような好循環を生み出すことが、大学病院である私たちの使命であると考えています。
これからのDiabetes Newsでは、日々の診療や研究の現場で感じている糖尿病・代謝医療の課題、その背景、そして未来への提言を皆様と共有していきたいと思います。半世紀前に糖尿病センターが目指した「トータルケア」の精神を大切にしながら、私たちは次の時代の糖尿病・代謝医療へ歩みを進めます。これからもどうぞよろしくお願いいたします。
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1型糖尿病(T1D)発症前から自己免疫の異常が始まっていることは、1980年代からすでに唱えられていました。2000年代になると大規模な自然歴の前向き研究が始まり、2015年には発症前staging(病期分類)が米国糖尿病学会を中心にまとめられました。Stage 1は2種以上の膵島関連自己抗体(IAb)陽性かつ正常血糖、Stage 2は2種以上のIAb陽性かつ耐糖能異常、Stage 3はT1D発症とされています。こうした研究は発症率の高い欧米で盛んに行われ、対象は小児や小児期発症例の第一度近親者で、IAbやHLAタイピングの結果とその後の経過を追跡する前向き研究として報告されています。
本年2月12〜13日、ドイツ・ミュンヘンで開催されたBR1DGE Summit 2026に参加しました。発症前T1Dをテーマとした国際医学プログラムで、小児・成人糖尿病専門医、免疫学研究者、スクリーニング研究者、患者団体、公衆衛生・政策担当者など幅広い立場の参加者が集まり、発症前診断やスクリーニングを担当してきた専門家らから多くのデータが紹介されました。1日目午前は、T1D早期発見の進展と今後の可能性、IAbスクリーニングの実施方法についてのセッションに続き、小児・成人別のワークショップが行われました。午後は早期モニタリングの改革、成人診断の最適化、早期発見に向けた連携推進の政策がテーマとなりました。ホットトピックスとしては、AIによる早期発見の最適化、T1Dステージ分類、成人の血糖異常からの早期発見の可能性という3件の発表が注目を集めました。2日目はケアの転換点、体制の再構築、新しい免疫療法のケア計画への組み込み方、テプリツマブ(抗CD3モノクローナル抗体)の使い方などが扱われました。
代表的な研究の1つがFR1DA研究です。一般小児を対象に発症前T1Dの発見を目的とした、ドイツ・バイエルン州の大規模スクリーニング研究で、対象は2〜5歳児、通常の小児健診でGADA、IA-2A、ZnT8A、IAAのうち2種類以上が陽性であれば発症前T1Dと定義しています。これまで90,632人をスクリーニングし、280人(0.31%)が発症前T1Dと診断され、内訳はStage 1が196人、Stage 2が17人、未診断のStage 3が26人でした。追跡調査では、この280人のうち3年以内にStage 3へ進行する累積リスクは24.9%でした(JAMA. 2020;323:339-351.)。一方、第一度近親者を対象としたTrialNetでは22万人以上をスクリーニングし、約5%が1つ以上、1.5〜2%が2つ以上のIAb陽性という結果でした(Diabetes Care 2025;48:1112-1124)。
最近、日本人T1Dの第一度近親者を対象にstagingを行った多施設共同研究が発表されました(Diabetes Res Clin Pract 2026;238:113350)。2614名を検査した結果、95名(3.6%)がIAb陽性、うち16名(0.6%)は複数陽性でした。欧米の結果と比べても、この頻度は決して低くないことがわかりました。
発症前状態の把握や発症予防への取り組みは、海外では20年以上前から研究が積み重ねられてきました。ただ日本人は発症率が低く、同水準のスクリーニングは費用面で難しいと推察されます。現時点で重要なのは、第一度近親者を対象に、より安価に実施できるスクリーニング体制を構築し、発症前T1Dを早期に見つけて予防的治療へつなげる道筋を社会的に推進することだと考えます。他の自己免疫疾患や膠原病を持つ本人とその第一度近親者を対象としたスクリーニングも、一つの可能性でしょう。健診でのIAb検査も一案ですが、費用対効果の面では現実的とは言えません。日本におけるスクリーニング対象者の設定については、今後も引き続き議論が必要です。
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2026年3月28〜29日にインド・ジャイプールで開催された「The Global Summit to End Diabetes Stigma」に 参加しました。本サミットには世界各国の医療者、研究者、糖尿病をもつ人、アドボケイト、政策担当者が集い、「糖尿病スティグマをいかに終わらせるか」をテーマに活発な議論が行われました。印象的だったのは、糖尿病スティグマは国や文化によって現れ方は異なるものの、その存在は世界共通の課題であるという認識が共有されていたことです。そして、スティグマ軽減の鍵として医療者や社会が用いる「言葉」の重要性が繰り返し議論され、その中心テーマが「Language Matters(言葉の問題)」でした。
サミットの主催者の一人であるHolmes-Truscottらは、このテーマを総括するレビューを2026年にDiabetic Medicine誌へ発表しました(https://doi.org/10.1111/dme.70311)。Language Mattersとは、単なる言葉の言い換えではありません。言葉は情報を伝えるだけでなく、社会の偏見や患者自身の自己認識、医療者との信頼関係にも影響するため、「どのように伝えるか」は「何を伝えるか」と同じくらい重要であるという考え方です。2011年にDiabetes Australiaが公表した"A New Language for Diabetes"を契機に、現在では19か国以上、30を超えるガイドラインへ広がり、2024年には国際糖尿病スティグマコンセンサスやEnd Diabetes Stigma Pledgeへと発展しています。
本総説では、Language Mattersを支持するエビデンスも紹介されています。「non-compliant(指示を守らない)」「poor control(コントロール不良)」「failed(失敗した)」といった評価的な表現は、患者に「責められている」という感覚を与え、罪悪感や恥、自尊感情の低下につながります。一方、「person living with diabetes(糖尿病とともに生きる人)」「manage diabetes(糖尿病をマネジメントする)」「within target range(目標範囲内)」などの人を中心とした中立的な表現は、尊重されているという感覚や主体的な医療参加を促します。ただし、著者らは「唯一の正しい言葉」があるわけではなく、糖尿病のタイプや年齢、文化的背景に応じたLanguage Mattersが必要であると述べています。
Language Mattersの本質は、患者を評価する言葉から、患者の状況を理解する言葉へ視点を変えることです。例えば、「コントロールが悪い」ではなく「現在は目標範囲を外れている」、「指示を守らない患者」ではなく「自己管理が難しい背景がある」と捉えることで、対話は大きく変わります。また、「できていないこと」ではなく「できていること」に目を向ける強み志向も重要です。さらに、患者が受け取るメッセージは言葉だけでなく、表情や声の調子、身体言語、診療室の掲示物や資料のデザインにも表れます。スティグマのない医療には、診療環境全体のコミュニケーションを見直す視点が求められます。
サミットを通じて改めて感じたのは、「言葉は治療の一部」であるということです。診察室で何気なく発した一言は、患者の日常や自己認識に長く影響を及ぼします。
Language Mattersが目指すのは、「正しい言葉遣い」を競うことではなく、糖尿病をもつ人が尊重され、自分らしく生活できる社会を実現することです。その第一歩は、私たち医療者一人ひとりが日々の言葉を少し意識することから始まります。患者に寄り添う姿勢は、治療方針だけでなく、私たちが選ぶ一つひとつの言葉にも表れることを、改めて心に留めておきたいと思います。