DIABETES NEWS No.169
 
No.169 2019 March/April 

糖尿病と心不全

東京女子医科大学 内科学(第三)講座
(糖尿病・代謝内科)教授・講座主任
馬場園哲也
 糖尿病と心不全との関連が最近注目されています。その理由として、糖尿病を合併する心不全患者が増加していることがあげられます。また糖尿病薬に対する最近の複数の大規模試験で、SGLT2阻害薬の心不全発症低減効果が示されました。今回は、糖尿病と心不全との関連について考えてみたいと思います。

◆心不全パンデミック
 2004年以降国立循環器センターと日本循環器学会は共同で、循環器専門医研修施設および研修関連施設に対して「循環器疾患診療実態調査(The Japanese Registry of All Cardiac and Vascular Disease; JROAD)」を行っています。その最新調査によりますと、2016年に心不全のために入院した患者数は約26万人であり、毎年1万人ずつ増加していることが明らかにされました(Yasuda S, et al. Circulation2018; 138: 965-967)。

◆心不全ガイドライン
 日本循環器学会と日本心不全学会の合同による「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版, 2018年3月23日発行)」では、糖尿病と急性あるいは慢性心不全が密接に関連していることから、心不全の発症・進展抑制を目的とした糖尿病治療が必要であるとし、糖尿病がある場合、心不全ステージ分類A(器質的心疾患のないリスクステージ)と位置付けています。

◆SGLT2阻害薬の心不全発症抑制効果
 最近発表された、SGLT2阻害薬の心血管安全性試験(CVOT)であるEMPA-REG Outcome(エンパグリフロジン)、CANVAS(カナグリフロジン)およびDECLARE-TIMI 58(ダパグリフロジン)の3試験の結果、いずれも2型糖尿病患者の心不全リスクを有意に減らすことが明らかにされました。ただし、これらの試験に参加した患者の多くがすでに心血管疾患を持っていたことから、上述の心不全ガイドラインでは、心血管病既往のある2型糖尿病患者に対するSGLT2阻害薬(エンパレグフロジンおよびカナグリフロジン)による治療介入を、推奨レベルI、エビデンスレベルAとしています。また、本NEWS No.167でご紹介した、ADAとEASDによるコンセンサスレポートでも、心不全がある場合にSGLT2阻害薬を優先して使用することとされています。

◆今後の課題
 心不全患者に糖尿病の合併が多いとしても、日本人糖尿病患者における心不全の実態については、ほとんどデータがありません。糖尿病患者に多い急性心筋梗塞が救命できるようになった結果として心不全が増えているのか、本NEWS No.166でご紹介した、左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)が糖尿病患者で多いのか、などについて、今後明らかにする必要があります。また元々心血管疾患の合併頻度が少ない日本人2型糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬の一次予防効果についても、今後の検討課題といえます。

 

糖尿病領域における人工知能への期待

東京女子医科大学
糖尿病センター 内科 准教授
三浦順之助
 近年テクノロジーの進歩により人工知能(artificial intelligence: AI)が様々なところで使用されるようになりました。身近な所では自動車の自動運転技術、囲碁「AlphaGo」のプロ棋士との対戦勝利、IBMの「Watson」などが知られていますが、医療分野での研究も盛んに行われています。AIの基盤となるのは、深層学習(deep learning)という学習技術です。

◆深層学習とは
 通常の機械学習では、データから規則性や関連性を見出し判断や予測をしますが、着目する点は人間が指定する必要があります。深層学習は、人間の脳神経回路をモデルにした多層構造であるニューラルネットワークを用い、特徴となるパラメータや組み合わせを自ら見出します。ただし、精度を高めるためには非常に多くのデータの学習が必要となり、学習データにより解析の方向性も変わるため、データの選び方には慎重を期する必要があります。

◆医療におけるAI
 AIは特に画像識別を得意としています。例えば、胸部X線写真(Radiology 287: 574-82, 2017)、眼底写真、病理画像所見の分類、皮膚病変写真の所見分類(Nature 542: 115-118, 2017)などについては既に有効性の報告がされています。前出の論文では、胸部X線写真での結核診断の感度97.5%、特異度100%と報告されており、非常に精度が高いことが分かります。単細胞を扱う基礎実験でも、Aが全体から生きた細胞を99%以上の精度で選り分けることが報告されています(Sci Rep 7; 16831, 2017)。

◆糖尿病領域でのAI
 糖尿病診療で汎用される画像は、前出の眼底写真です。米国からの報告で、128,175枚の眼底写真で糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫についての病期を深層学習させ、①患者4,997人、画像9,963枚(平均年齢54.4歳; 女性62.2%; 増殖網膜症(PDR)の有病率7.8%)、②患者874人、画像1,748枚(平均年齢57.6歳; 女性42.6%; PDR 有病率14.6%)の2つのデータセットで診断の正確性が検討されました(JAMA 316: 2402-2410, 2016)。結果は、①感度90.3%、特異度98.1%、②感度87.0%、特異度98.5%と高い精度で診断可能であることが分かりました。翌年には多民族での眼底評価の報告がなされました(JAMA. 318: 2211-2223, 2017)。494,661枚の眼底写真を深層学習させた後、糖尿病網膜症の判定は、感度90.5%、特異度91.6%でしたが、重症の糖尿病網膜症に限ると感度100%、特異度91.1%と感度が上昇しました。また緑内障(同96.4、87.2%)、加齢黄斑変性症(同93.2、88.7%)でも同様に診断可能であると判断されました。今後、スクリーニングレベルの眼底写真の判定には、AIが眼科医の仕事の一部を担う可能性がでてきたと思われます。
 昨今、持続糖濃度測定(CGM)が普及してきました。CGM装着下に、予測開始直前20分間のセンサグルコース値から15、30、45分後の糖濃度をAIで予測すると、二乗平均平方根誤差がそれぞれ10、18、27mg/dLであったという報告があります(Diabetes Technol Ther. 12: 81-88, 2010)。この値は、以前報告された回帰モデルの値より良好であったとのことです。位相空間に変換した非線形回帰モデルを用いた30、60分後の予測血糖値の平均絶対誤差は、5.2±1.6、6.5±1.6mg/dLであったとの報告(Sci Rep. 7, 6232, 2017)もあり、予測精度は上がってきています。更に、AIを用いた将来の合併症予測の報告もあり、今後の技術の進歩が期待されます。

 

レムナントリポ蛋白コレステロールおよびsmall dense LDLと糖尿病との関連

東京女子医科大学
臨床検査科/糖尿病センター
菅野宙子
◆動脈硬化惹起性の強いリポ蛋白
 本邦での大規模臨床研究であるJDCS(Japan Diabetes Complication Study)では、日本人2型糖尿病の冠動脈疾患(coronary heart disease; CHD)発症に対する危険因子として、HbA1cより中性脂肪(TG)やLDLコレステロール(LDL-C)がより重要であると報告しています(Sone H: J Clin Endocrinl Metab, 2011)。最近、レムナントリポ蛋白や小型高密度LDL(small dense LDL: sd LDL)が動脈硬化惹起性の強い因子として注目されています。レムナントリポ蛋白やsd LDLは、血中に長時間滞留し、小粒子であるため血管壁から侵入しやすく、マクロファージに貪食され泡沫化し、これが血管内皮に蓄積・沈着することで、動脈硬化を引き起こすと考えらています。
 レムナントリポ蛋白は、血中のTGリッチリポ蛋白が速やかに代謝されず、血中に長時間滞在するリポ蛋白の総称です。これは単一の形状ではなく、食事由来の外因性のカイロミクロンレムナント、内因性のVLDLレムナントなど、異なる種類を含んでいます。レムナントリポ蛋白と動脈硬化性疾患の関連については、レムナントリポ蛋白濃度値と頚動脈壁内膜中膜複合体肥厚との間に強い関連があるとの報告や(Karpe F: J Lipid Res, 2001)、レムナントリポ蛋白コレステロール値が冠動脈プラークの脆弱性に関与しているとの報告(Matsuo N: J Theroscler Tromb, 2015)などが示されています。
 一方、LDLは比重が幅広いリポ蛋白の集合で、粒子比重、サイズの異なる4つの亜分画から構成されています。このうち小型で密度の重い、直径25.5nm以下、比重1.044~1.063g/mLのLDLがsd LDLといわれています。1988年、Austinらは電気泳動によって、LDLの平均粒子直径を測定、正常のLDL粒子サイズを持つものをパターンA、直径25.5nm以下のsd LDLをもつものをパターンBに分類し、CHD発症頻度がパターンBではパターンAの3倍であったと報告しました(Austin MA: JAMA, 1988)。米国で行われた大規模研究であるMESA(the Multi-Ethnic Study of Atherosclesosis)では、健常人において、sd LDLの上昇はCHDの危険因子であること(Tsai MY: Arterioscler Thromb Vasc Biol, 2014)、sdLDL-C値と頚動脈壁内膜中膜複合 体の厚みは正相関することが報告されました(Aoki T: Clinica Chemica Acta, 2015)。

◆糖尿病との関係
 糖尿病患者において、インスリン抵抗性の状態が、脂質代謝におけるリポ蛋白リパーゼ(LPL)および肝性TGリパーゼの活性低下をきたします。これに起因して、TG代謝障害や、カイロミクロンやVLDLなどのTGリッチリポ蛋白の異化障害が生じます。さらに、インスリン抵抗性が、肝臓でのレムナント受容体活性を低下させ、またsd LDLにおいても、肝臓のLDL受容体への結合親和性を低下させることで、それぞれの肝臓への取り込みを抑制します。結果として血中のレムナントリポ蛋白とsd LDLが増加します。
 以上のことから、インスリン抵抗性を示す糖尿病患者では、レムナントリポ蛋白やsd LDLの増加による動脈硬化進展の可能性があり、その予防のためには、TGリッチリポ蛋白を減らすための食事療法や体重管理などが必要と考えられます。

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