ここ数年、医療インバウンドの波に押され、多くの外国人、特に中国人の患者さんを診察する機会が増えています。そんな中"The 27th Scientific Meeting of the Chinese Diabetes Society(2025年11月19〜22日 中国西安市)に参加する機会を得ました。極めて短期間の滞在中、Continuous Glucose Monitoring (CGM)を中心に見聞きした話題を紹介します。
China Chronic Disease and Risk Factors Surveillanceによれば、2023年時の中国における糖尿病患者数は約2億3,300万人と推計され、年齢調整有病率(ASR)は13.7%です。しかし現状推移をするとASR は2050年には29.1%まで上昇すると予測されています(Mil Med Res 2025:12:28)。このような大規模な集団に対して、糖尿病管理に直結するスケーラブルな介入として、CGMの臨床的価値は高いと評価されています。一方、現在中国におけるCGMの使用率は5%未満との報告もあり、普及の余地は大きいと思われます。
TITR (Tight in Time Range)の臨床価値:死亡・網膜症と関連
TITR (血糖値70~140 mg/dL)が、全死亡・心血管死亡のリスクや糖尿病網膜症の発症と関連することを示す前向き研究や横断研究の結果が報告されました(Diabetes Care 2021;44:549-555, Diabetes Obes Metab. 2025;27:1415, Diabetes Obes Metab. 2025;27:2154) 。TIRに加えてTITRを補助指標として扱うことで、より厳密な安全性評価や合併症リスクの層別化に役立つ可能性が示唆されました。
AGP(Ambulatory Glucose Profile)に基づく個別教育
青少年患者を対象に、AGPに基づく個別教育を導入した管理モデルを評価する中で、低血糖→血糖変動→高血糖の三段階で課題を特定し、食事・運動・睡眠・ストレスへの対応を含む行動変容を反復的にチューニングしたところ、自己管理能力と血糖指標の改善が認められたことが報告されました。
外部機器(スマートフォン/タブレット、医療機器、インスリン自動投与装置等)と連携することを想定して、より高い安全性や性能基準を満たすCGMであることを担保するため、FDAは"iCGM"という概念を導入しています。
一方、わが国ではフリースタイルリブレ2とDexcom G7のみが保険適応下で流通しています。しかし中国ではこれらに加え、低価格ではあるものの品質に課題のあるCGMが複数存在します。そのため、厳しい基準を満たしたCGMをiCGMとして認定する制度(基準)が中国でも整備されました。わが国では認定制度(基準)はありませんが、採用されている2機種ともに高品質であるからとも言えます。
今回参加した中国糖尿病学会では、iCGMの概念の導入とともに、安全性と有効性の両面から高品質のCGMの使用拡大、AGPに基づく管理モデルの適応、デジタル連携の運用等々、プライマリーケアでも再現性の高い実務フレームとして提示されており、今後もその進捗を注視したいと思いました。
2026年3月1日付けで、教室の基幹分野長・教授として長尾元嗣先生が着任されます。教室発信のタイムリーな話題を、引き続きお届けできるよう努めて参ります。乞うご期待下さい。
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2025年10月、動機づけ面接(Motivational Interviewing:MI)の新人トレーナー研修が米国ミネアポリスで開催され、参加してきました。MIを学び、実践し、普及する国際的トレーナーネットワークであるMotivational Interviewing Network of Trainers(MINT)には、日本を含め62の言語を話すメンバーが世界で数千人参加しています。今回の研修には世界各国から159名が集まり、非常に貴重な学びの機会となりました。本稿では、まずMIの基本的な考え方を紹介したうえで、糖尿病診療との関連について述べます。
MIとは、変化や成長について対話し、その人自身がもつ意欲やコミットメントを引き出すための、独自のコミュニケーションスタイルです。一方的な指導や説得ではなく、共感的に聴き、相手の価値観・目標・願いを言葉として引き出し、その人の内側から湧き出る動機づけを高めることを目的としています。MIは米国の臨床心理学者のWilliam R. Miller博士と英国のStephen Rollnick博士により1980年代に開発され、アルコール依存、禁煙、生活習慣の改善など、行動変容が求められる領域で広く用いられてきました。2025年時点で、MIに関する臨床試験は2073件、系統的レビューは490件と、豊富なエビデンスが蓄積されています。
MIは単なる面接技法の集合ではなく、その根底には"spirit(精神性)、すなわち協働(Partnership)・受容(Acceptance)・思いやり(Compassion)・エンパワーメント(Empowerment)が存在し、その精神性を体現するためのスキルが位置づけられています。基本姿勢は人中心(person-centered)であり、患者やクライエントという役割以前に、まず一人の人として尊重する対等な関係を重視します。医療者は「変えよう」とする衝動(fixing reflex)を抑え、相手のペースや選択を尊重しながら、安全で信頼できる対話の場をつくります。人は誰しも「わかってはいるができない」という両価性(ambivalence)をもっています。MIでは対話を通じて、その中にある「変わりたい気持ち」を引き出し、強めていきます。例えば「内服しなければと思っているが、忙しくて忘れてしまう」という発言の中に含まれる"内服しなければ"というチェンジトーク(特定の変化への動きを示す言葉)を丁寧に育て、具体的な行動につながるよう支援します。
糖尿病治療の目標は、合併症を予防し、糖尿病をもつ人が健康で質の高い生活を送れるよう支援することです。しかし診療の現場では、血糖値やHbA1cを示し、食事・運動療法の必要性を説明しても、血糖マネジメントが思うように進まないことがあります。新しい薬剤を処方しても期待した効果が得られず、医療者が葛藤を抱える場面も少なくありません。そのような中で、MIは糖尿病診療における有効なアプローチとして注目されています。実際に、Diabetes Care誌の「Standards of Care in Diabetes-2025」においても、共有意思決定(Shared Decision-Making)を支える方法としてMIが推奨されています。
MIは医療、教育、福祉、スポーツなど幅広い分野で活用され、人が本来もつ変化の力を引き出す、人間的かつ科学的なアプローチとして発展を続けています。糖尿病診療に携わる医師、看護師、薬剤師、管理栄養士などの多職種がMIに関心を持ち、共に学び、糖尿病をもつ人へのより良い支援につながることを願っています。
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SGLT2阻害薬や非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬であるフィネレノンなど、近年の治療の進歩により、本邦における慢性透析患者数のうち糖尿病性腎症を原疾患とする患者の増加はようやく頭打ちとなりました (透析会誌 2024;57:543-620)。しかし、依然としてその割合は39.5%と高く、残余リスクへの対策は重要な課題です。
基礎研究では、コレステロールの腎毒性が報告されています (J Clin Invest 2016;126:3336)。しかし、ヒトを対象としたこれまでのほとんどの研究ではLDLコレステロール (LDL-C)と糖尿病関連腎臓病 (diabetic kidney disease: DKD) の発症・進展との明確な関連は示されておらず、強力なLDL-C低下薬であるスタチンの腎保護効果についても多くが否定的です。こうした背景のもと、近年注目されているのがレムナントコレステロール(remnant-C)です。remnant-Cが糖尿病患者の腎機能低下に対する危険因子であることが相次いで報告されています。そこで本稿では、DKDに対するremnant-Cの影響について、これまでの知見と自験例をふまえ概説します。
レムナントは、カイロミクロンやVLDLなどの中性脂肪 (TG) に富むリポ蛋白が、血中でリポ蛋白リパーゼにより分解された中間代謝産物を指します。レムナントはLDLと比較し、コレステロール含有量が多く、血管壁に長く滞留します。そのため、remnant-Cは冠動脈疾患の危険因子であることが知られています (J Am Coll Cardiol 2013;61:427)。
新規に2型糖尿病と診断された212,836名を対象とした後ろ向き観察研究では、観察開始時のremnant-C高値がその後の腎機能低下 (eGFR 60 mL/min/1.73m2未満) 発症の危険因子であることが韓国から報告されました (Diabetes Res Clin Pract 2024;210:111639)。同様の結果は,1型糖尿病患者5,150名を対象としたフィンランドの前向き研究、 2型糖尿病患者4,237名を対象とした中国の前向き観察研究からも報告されています (J Intern Med 2021;290:632, Diabetes Res Clin Pract 2022;191:110079)。
しかし、上記の研究はremnant-Cと強い相関があるTGを考慮していません。TGの腎毒性の可能性 (Atherosclerosis 2025;403:119146) を考えると、上述した結果は,remnant-Cではなく、単にTGが腎アウトカムに影響した結果を見ているにすぎないかもしれません。
そこで我々は、「remnant-CはTGとは独立して腎アウトカムに関連するのか」を検証するため、当科外来通院中の2型糖尿病患者5,214名を対象とした後ろ向き観察研究を行いました (Mori T, Yamamoto Y, et al. J Clin Lipidol 2025 Online ahead of print)。Remnant-C、TGの日差変動を考慮し、観察期間中におけるそれぞれの平均値を暴露因子としました。対象患者をremnant-CおよびTG値の中央値で分類した計4群に分類しました。アウトカムは eGFR の40%以上低下または腎代替療法の開始と定義しました。観察期間の中央値8.8年で1,070名がアウトカムに達しました。remnant-C、TGいずれも低値群 (n=2,293) を対照としたとき、TGのみ高値群 (n=314)、remnant-Cのみ高値群 (n=314)、TG・remnant-Cいずれも高値群 (n=2,293) におけるハザード比はそれぞれ、1.21 (0.88-1.65)、1.48 (1.07-2.05)、1.33 (1.13-1.58) であり、TGの高低にかかわらず、remnant-C高値群でハザードは有意に高値でした。
糖尿病患者においてremnant-C高値はTGを考慮したうえでも、腎予後予測因子となることが明らかとなりました。今回ご紹介した論文はいずれも観察研究であり、remnant-Cの因果関係を明らかにすることはできません。そのため今後、remnant-Cを治療標的とした介入研究が行われることが期待されます。