DIABETES NEWS No.37
    No.37
     1994 
     SPRING 
 

IDFとは
 大分以前から準備が始められていた第15回国際糖尿病会議が、今年11月6日から日本で開催されます。国際糖尿病会議とは、通常 IDF と略されている International Diabetes Federation、国際糖尿病連合の学術会議のことです。この IDF には、世界86力国、105団体が加盟しており、3年に1回世界のどこかの都市で開催されています。
 第1回は、1952年にオランダのライデンで開かれました。その後、イギリス、ドイツ、スイス、カナダ、スウェーデン、アルゼンチン、ベルギー、インド、オーストリア、ケニア、スペイン、オーストラリア、アメリカを経て、今回日本が開催を担当することになりました。神戸のポートピアで、馬場茂明神戸大学名誉教授の下で開かれます。

世界的な糖尿病の増加
 糖尿病は、現在あらゆる年齢層にみられ、年々増加の傾向にあり、新しい国民病ともよばれています。地球上どの国においても同じような傾向がみられ、大きな社会問題となっています。国によって糖尿病の性質は多少異なりますが、かかえている合併症対策への問題は同じようです。わが国の糖尿病は、90%がインスリン非依存型(NIDDM)で、欧米や北欧などにみられる若年発症糖尿病は、ことごとくインスリン依存型(IDDM)です。また、アフリカやインド、中南米、東南アジアには、栄養不良関連糖尿病(MRDM)がありますが、わが国には全くみられません。

会議の成功へ向けて
 国際糖尿病会議では糖尿病学に関心をもち、糖尿病の治療や研究に従事している世界中の医師およびコメディカル、患者さんが、一堂に会して糖尿病に関する治療・予防などを中心とした研究発表が行われます。この活動を通して、世界における糖尿病患者さんの福祉に役立てようとするのが本会の目的です。組織委員ほか担当の諸先生方は、日本で行われるこの会議を成功に導くべく、募金活動、プログラム編成など日夜その準備に邁進しております。
 国際糖尿病会議の記念切手の発行もすでに決定しています。
 


 糖尿病は動脈硬化をおこしやすく、非糖尿病の数倍にもおよぶといわれています。動脈硬化の危険因子としてあげられる高脂血症は、従来よりコレステロールが主体で、トリグリセリドに関しては長い間軽視されていました。ところが最近になって高トリグリセリドを中心とした動脈硬化発症条件の新しいプロフィルが、相次いで提起され注目を集めています。

高トリグリセリド血症と動脈硬化
 1987年フラミンガム研究グループは更年期後の女性における高トリグリセリドは、虚血性心疾患に対する独立した危険因子となると報告しました。次いで1988年 Reaven の"X症候群"、1989年 Kaplan の"死の四重奏"は、いずれも高トリグリセリドの動脈硬化への関与を強く支持した提案であります。また脂質の研究者からは低 HDL 血症を伴う IV型高脂血症(トリグリセリドが高くコレステロールは正常)では、アポ蛋白Bの高値と小型で高密度の低比重リポ蛋白(LDL)が生ずること、この LDL は極めて動脈硬化を起こしやすいことが明らかにされました。

リポ蛋白(a):Lp(a) と動脈硬化
 Lp(a) は、新しい動脈硬化のマーカーとして急速に関心が高まっているリポ蛋白です。LDL のアポBとアポ(a) が SS結合したリポ蛋白です。アポ(a) の構造が血液線溶因子のプラスミノゲンに極めて類似であることから、線溶系の阻害因子として働く可能性が考えられております。動脈硬化疾患である心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性末梢動脈硬化症においては Lp(a) が高値であることが知られております。当センターでも糖尿病における Lp(a) を測定したところ、高値のものが多く、とくに進行した網膜症や腎不全患者では一層高値であることをみとめました。糖尿病における Lp(a) の高値が動脈硬化の危険因子となるか否かは今後検討されるべき課題です。

動脈硬化の予防
 糖尿病では高頻度に高脂血症を合併しますが、血糖コントロール不良、肥満、アルコール多飲などが原因の二次性高脂血症の場合と、遺伝負荷をもつ家族性高脂血症が糖尿病とたまたま共存した場合の2通りがあります。どちらにしても高脂血症を是正することは、糖尿病における動脈硬化の予防に大切であります。それには血糖コントロールを良好に保ち、肥満を解消することがまず第一です。それにより、高トリグリセリドと低 HDL-コレステロールは比較的容易に改善されるでしょう。しかし遺伝的に高脂血症をもつ場合には、早目に適切な抗脂血剤を使って出来るだけ血中脂質の正常化を計ることが肝要です。
 


高かった日本のIDDM死亡率
 1965年から1984年の、フィンランド、アメリカ、イスラエル、そして日本を含めた4ヶ国の共同研究として子供に多いインスリン依存型糖尿病(IDDM)の生命予後が、1991年アメリカの雑誌『糖尿病』に報告されました。
 一般の同年代の人の死亡率を1とするとその年代の IDDM の患者さんがどのくらい死亡するかが、標準化死亡比といわれる方法で比較されています。その結果、フィンランド 1.9、アメリカ 2.3、イスラエル 1.5 と低率でしたが、日本は何と 9.9 と高い値でした。つまり、糖尿病があると若年でありながら死亡する率が高く予後が大変悪いという意味です。

1980年頃の日本のIDDM治療
 これは、糖尿病性ケトアシドーシスや糖尿病昏睡による死亡が1980年前後に多かったことが原因と考えられます。
 わが国では IDDM の頻度が欧米に比較し極端に少ないこと、またそのために IDDM という病気の理解が得られていなかったこと、1981年6月まではインスリン自己注射が法的には禁じられていたことなどが、糖尿病性ケトアシドーシスによる死亡率を大きくしたと考えられます。

受診者の追跡調査では
 この結果は日本全体の調査によるものでしたが、昨年、私達は当センターへ受診登録されている 30歳未満発症 IDDM の生命予後について検討してみました。対象となった 488名の若年発症糖尿病のうち、残念ながら 11名の死亡者がいましたが、標準化死亡比は 2.8 で、国際調査班の報告よりもずっと良いことがわかりました。
 原因不明の死が何例かありましたが、合併症である腎症が進行してからの死亡が、11例中4例あったのが目立ちました。

より一層の予後改善のために
 IDDM の生命予後は、以前と比較してよくなっていることは明らかです。その反面、罹病期間が長くなるにつれ、血糖コントロールを怠ると合併症が出現し、進行してくる可能性があります。そうならないために、糖尿病セミナーや教育講演会などを利用して糖尿病をよく理解すること、自己管理をしっかり行い血糖コントロールを良好に保つこと、そして定期的に必ず専門医の診察を受けることが必須条件と思われます。
 実際に雑誌 New England Journal of Medicine の1994年1月6日号(vol.330)に、糖尿病性腎症の発症頻度は低下しつつあることが報告されていました。今後、もっともっと IDDM の予後がよくなることが望まれます。

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