DIABETES NEWS No.32
    No.32
     1992 
     WINTER 
 

 かつて、糖尿病の晩期合併症としての Kimmelstiel-Wilson 症候群は誰も知らない人がいないほど有名であった。臨床徴候としては、腎不全、高血糖、眼底出血の三つを併せもつものである。糖尿病センターの前身である、中山内科(主任中山光重教授)、小坂内科(主任小坂樹徳教授)の入退院名簿には、この診断名がたくさん見られる。しかし、現在は、高血圧があっても網膜症や腎症の三徴候が必ずしも一致しているものばかりではなく、別々に存在することも多いので、この診断名を用いることはなくなってしまった。

患者教育の重視
 Kimmelstiel-Wilson 症候群という診断名が用いられていた時代に、患者教育という言葉はなかった。今では患者教育は、糖尿病治療の最も大切な一環をになっている。食事と関係があるため、自己管理を必要とする糖尿病の知識をあたえ、コントロールに励む Motivation を与えるためにも、それは大いに役だっている。

壊疽の増加
 昭和30年代、私たちは、日本の糖尿病には壊疽はないと教えられた。Gangrän とはこんなものであると、ドイツ語の教科書にでている写真で教わった。今では日本でも末梢神経障害や動脈硬化のつよい人たちで、高血糖を放置したまま過ごした人々に壊疽は多い。
 先日も壊疽ではじめて糖尿病を発見された患者さんに出合った。糖尿病センターの入院の約10%は壊疽をもった患者さんである。以前は末梢の動脈硬化が進展するまで、長生きすることができなかったために壊疽が少なかったのであろうと推測される。

治療法の進歩と当面の課題
 病像の変貌だけでなく、糖尿病にまつわる治療法も大きく変化し、失明も光凝固の時期を失することがなければ予防することは可能になった。従って、1歳や2歳で発症したインスリン依存型糖尿病でも、よいコントロールを保った人々は合併症を憂慮することなく健全な赤ちゃんを出産している。
 しかし、腎症への進展阻止は、HbA1Cを near normal に保つ以外にはなく、近年透析導入患者が急増している。この変貌は、なんらかの形でくいとめなければならない。
 


 小児・ヤング糖尿病や妊娠時の血糖コントロールに必需品ともいえる血糖自己測定器は、医療器械の進歩に伴い、新しい測定器が次々と開発されてきています。そこで、現在用いられている主な新しい血糖測定器を紹介します。

拭き取り不要でコンパクトに
 最近の測定器が従来のものと大きく変わってきているのは、血液を試験紙にのせた後、拭かずにそのまま器械で測れる点です。これにより、拭き取りのタイミングによる測定誤差を最小限にできる、という利点があります。さらに、試験紙の挿入と同時に測定が自動的に開始されます。従って、血液滴下とともにスタートボタンを押す必要がありません。
 測定時間も短くなりました。従来は60秒から120秒を要していましたが、新しいものでは20秒から60秒で測れます。大きさも、従来の器械にくらべ、カード型、電卓型、ペン型とずいぶんコンパクトになってきています。重量も、30gから130g程度までと軽量化してきています。

微量な血液で広範囲な測定が可能に
 穿刺により滴出する血液も、以前は試験紙にこんもりと半円球に盛るくらいに必要でした。新しい器械では、毛細管現象で器械が血液を吸引してくれるタイプもあり、必要量も10~50μL と、微量で可能になっています。これで、穿刺もずいぶん楽になってきました。
 以前は low や high としか表示されなかった値も、性能の向上に伴って、下限値が 20~40mg/dL に、上限値が 500~600mg/dL までに広がってきました。

コンパクトになった新しい血糖測定器

 

やはり重要な確実な手技
 このように、性能や便利さは次々に向上してきました。しかし、自己穿刺による簡易血糖測定であることに変わりはありません。ていねいな器械の扱いと確実な手技は、依然として非常に重要です。また、器械に関する故障や不明な点についてのアフターケアも重要です。自己血糖測定値が悪くないのにヘモグロビンA1 や A1c 値が高い場合は、もう一度穿刺の仕方からチェックする必要があります。

これからの簡易自已血糖測定器
 1991年に開催された第14回国際糖尿病連合の学術集会で、米国のグループから吸光技術を用いた携帯型非観血的自己測定器の発表がありました。また、日本で赤外線分光分析法を用いた非侵襲的血糖測定器が開発中です。穿刺しないで血糖を手軽に測定できる日も近いものと思われます。
 


健常者の2倍異常の出現率
 糖尿病では、高血糖時にカルシウムや燐の尿中排泄が増加し、活性型ビタミンDの低下等により骨減少症が合併しやすいと言われています。骨減少症とは骨塩すなわち骨を形成しているカルシウム塩や燐酸塩が少なくなる疾患です。わが国では、糖尿病における中等度以上の骨減少症の合併は、健常者の約2.5倍と報告されています。
 一般に、骨塩量は加齢とともに減少してゆきます。特に女性では、閉経後急速に骨塩量の減少がみられます。腰椎骨塩量が正常下限より 10%減少すると、慢性的な腰背部鈍痛や腰椎圧迫骨折の出現頻度が増加し、寝たきりになってしまうこともあります。

新しい診断法と病因の究明
 近年、骨減少症の診断に二重エネルギーのエックス線を用いた Dual energy X-ray absorptiometry (DEXA) 法が利用されるようになりました。この方法により、従来の MD 法や腰椎エックス線像にくらべ、少ない侵襲で正確に骨塩量を定量することができ、骨減少症の早期発見に有用と考えられます。
 糖尿病患者が女性の場合、骨塩量は同年代の健常者に比べより減少しています。また、神経障害や網膜症等糖尿病性合併症がありますと、より一層の骨塩量の減少がおこります。このことは、糖代謝異常の長期間の持続が、骨塩量の減少をきたす一因となっていると考えられます。また、糖尿病による細小血管障害が、直接的に骨の栄養に影響を与えている可能性も考えられます。

治療と予防のポイント
 骨減少症の治療目標は骨塩量を増加させ骨折を予防することです。しかし、現在それ程までに骨塩量を増加改善できる薬剤は実用化されていません。従って、骨塩量をいかに減らさずに維持するかが治療のポイントとなります。また、いったん骨塩量が減少してしまった方は、骨塩量維持のための薬物療法として、カルシウム製剤、ホルモン製剤(エストロゲン、カルシトニン)、ビタミンD、イプリフラボン等の併用が必要となってきます。
 骨減少症の予防は、日常生活において日本人に不足がちなカルシウムを多く含む食品を摂ること、適度の運動をすること、日光によくあたること等が大切です。糖尿病があれば、これらに加えて血糖コントロールを良好に保つことが重要となってきます。
 今後、DEXA 法の利用は骨減少症の早期発見と予防に広く役立つものと思われます。

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