DIABETES NEWS No.186
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No.186 | | 2022 Winter |
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第57回糖尿病学の進歩を
開催いたします
東京女子医科大学 内科学講座 / 糖尿病・代謝内科学分野 教授・基幹分野長
馬場園哲也
第57回糖尿病学の進歩(「進歩」)の世話人を仰せつかりました。2023年2月17日(金)・18日(土)の両日、東京都千代田区の東京国際フォーラムで開催いたします(
https://site.convention.co.jp/57shimpo/)。
◆ハイブリッド開催
「進歩」が会場での対面形式で行われたのは2019年3月の第53回(青森市)が最後であり、以後3回連続してwebによるリモートで開催されました。現在.なお日本全体で新型コロナウイルス感染者が増加している現状では、なお.通常開催は避けるべきと判断し、現地での感染対策を十分行った上で、ハイブリッド形式での開催をさせていただくこととしました。
今回の見どころ
今回の「進歩」では、専門医のための指定講演22題、糖尿病診療に必要な知識22題、糖尿病療養指導に必要な知識22題、臨床医が知っておくべき糖尿病の基礎22題、シンポジウム8に加え、「インスリン発見後新たな100年に向けて」、「糖尿病のデジタル医療」、「糖尿病性腎症治療の新展開-透析導入予防のために」および、「小児・思春期糖尿病診療における課題」を世話人特別企画としました。いずれのプログラムもわが国の糖尿病学をリードするエキスパートの先生方に、最新の知識をご講演いただきます。
コロナ禍においても糖尿病学はなお進歩しています。ハイブリッド開催という制約はありますが、本会の開催が、今後の糖尿病学の発展に繋がり、また先生方の日常診療のお役に立てることを祈念しております。多くの皆様のご参加と活発な議論をよろしくお願い申し上げます。
2型糖尿病の発症予測因子の性差について
15年間の追跡調査
東京女子医科大学
八千代医療センター
糖尿病・内分泌代謝内科
吉本 芽生
東京女子医科大学
八千代医療センター
糖尿病・内分泌代謝内科
(国保旭中央病院
予防医学研究センター)
橋本 尚武
2型糖尿病は全身疾患であり、腎症・透析導入、心血管イベントなど合併症の治療には高額な医療費がかかります。そのため、2型糖尿病患者の増加は、世界的に重要な問題であり、その発症を予防することが非常に重要です。2型糖尿病の発症には、インスリン抵抗性とインスリン分泌低下が関与しています。血清アディポネクチン(APN)はインスリン感受性を反映するマーカーで、APN低値はインスリン抵抗性と関連します。われわれは.血清APNを含む様々な臨床指標を用い、2型糖尿病を将来発症する危険因子の性差について評価したので紹介します(J Diabetes Investig 2023;14: 37-47)。
◆調査の方法
2004年4月から2005年3月までの間に千葉県旭市の国保旭中央病院予防医学研究センターで健康診断を受けた1,309人中、調査開始時に糖尿病の合併がなかった748人の方を対象としました。その後2020年までの15年間追跡調査を行い、新規で2型糖尿病を発症した人と発症しなかった人との間で血清APN濃度とBMI、血圧、脂質、肝機能、腎機能、尿酸値CRP、脂肪肝の有無を比較しました。
◆2型糖尿病を発症した人の特徴
15年間で108人(男性83人、女性25人)が2型糖尿病を発症しました。男女別にみたAPNのカットオフ値を用いた2型糖尿病発症に対するKaplan-Meier曲線を図に示します。調査開始時のAPNがカットオフ値の6.53μg/ml以下だと、全参加者でハザード比1.78(95%CI 1.20-2.63,P=0.004)、男性では5.36μg/ml以下で1.48(95%CI 0.96-2.29,P=0.078)、女性では8.52μg/ml以下で3.01(95%CI 1.37-6.59, P=0.006)で2型糖尿病を発症するリスクが増加しました。調査開始時から3年、5年後の血清APN濃度は男性も女性もほぼ横ばいで変化は認めませんでした。2型糖尿病.発症に影響を及ぼす因子としては、男性で高BMI、eGFR低下、脂肪肝、CRP高値、ALT高値が.単変量解析で有意でした。多変量解析ではeGFR低下と脂肪肝が有意に関連しました。女性では高BMI、収縮期血圧高値、高中性脂肪、脂肪肝、APN低値が単変量解析で有意であり、多変量解析では.APNが唯一の有意な危険因子でした(P<0.05)。
女性では血清アディポネクチン濃度が有用な2型糖尿病発症の予測因子に
今回の結果から、2型糖尿病発症の予測因子は男女間で差があることが明らかになり、特に女性ではAPN濃度が有用であることがわかりました。限られた社会的・経済的資源を最大限に活用するためには、将来2型糖尿病を発症するリスクがより高い人に対し、集中して介入を行うのが効果的です。その際には性差も考慮して介入すべき人を選択する必要があることが示唆されました。
小児・思春期2型糖尿病の
スクリーニング
東京女子医科大学 内科学講座 /
糖尿病・代謝内科学分野 准教授
三浦 順之助
2型糖尿病は40歳代以降に発症率が高くなりますが、一部は小児・思春期から.発症することから、その早期診断は将来の慢性合併症予防の観点からも重要です。30歳未満で発症した日本人糖尿病患者さんの好発年齢を糖尿病型別にみると、1型糖尿病は幼児期と10〜13歳にピークがありますが、2型糖尿病は10歳頃から増加し15〜17歳頃がピークとなります(当科データ、Diabetes Res Clin Pract 82: 80-86, 2008)。また1960年から2004年に30歳未満で診断された4,063人の日本人糖尿病患者の発症年齢別にみた1型と2型糖尿病の比率は、10歳未満95:5、10〜19歳50:50 20〜29歳25:75でした(Diabetes Care 30: e30, 2007)。多人種を対象に行われたSEARCH研究でのアジア・太平洋諸島の人々の報告でも10歳代の病型割合はほぼ1:1と同様でした(Pediatrics118: 1510-18, 2006)。これらのことからも、10歳代から2型糖尿病の発症を考慮に入れておく必要があります。
◆日本における若年発症2型糖尿病の実状
日本での発症率は小学生で0.75〜1.62/10万人・年、中学生で5.05〜8.32/10万人・年と中学生で高く、約70〜80%が肥満度20%以上の肥満を有していたと報告されています。食事・運動療法で血糖コントロール可能なのは60%程度で、他は何らかの薬剤介入が必要と考えられています。一方で、1974〜2008年に診断された患児の11%が非肥満であったとの報告があります。
◆米国の若年発症2型糖尿病の実状
米国疾病管理予防センターでは、2018年時点で 20歳未満の糖尿病患者が21万人で、そのうち約23,000人が2型糖尿病と推定しています。 2002-2003年から2014-2015年にかけて、若年発症2型糖尿病の発症率は9.0/10万人・年から13.8/10万人・年に増加しました。2005年から2016年の間、12〜18歳の若年者の約18%が前糖尿病状態であったとの報告もあります。その前糖尿病状態の若年者の22〜52%が介入なしで6ヵ月〜2年間で正常血糖または正常耐糖能に戻ることも報告されています。
◆米国糖尿病学会 Standard of Care in
Diabetes-2023におけるrecommendation
最新の小児・思春期2型糖尿病スクリーニングのrecommendationが、Standard of Care in Diabetes-2023に記載されています。スクリーニングは、①10歳以上または思春期発来後の過体重(BMI 85パーセンタイル以上)または肥満(BMI 95パーセンタイル以上)、糖尿病の危険因子(母親に糖尿病または妊娠糖尿病の既往、第一度・第二度近親者の糖尿病家族歴、人種、インスリン抵抗性の兆候)を1つ以上持っている若年者で考慮する、②正常耐糖能でも3年毎にBMIが増加傾向ならより頻回に施行する、③75g GTT、空腹時血糖値、2時間後血糖値、HbA1cを使用する、④若年者の糖尿病は1型糖尿病の可能性を除外する必要がある、と記載されています。
日本人でも肥満や家族歴などの危険因子は欧米と同様ですが、元々欧米よりBMIが低いことや、非肥満の2型糖尿病が多いいことから、肥満度については日本人独自の基準で判断する必要があります。また、日本では学校検尿による尿糖スクリーニングで指摘された時は、初診時には正常であってもその後定期的に検査を継続し発症を見逃さず早期に介入できるよう、家族を含めて危険因子や生活習慣の修正などにつき理解を促しておくことが大切です。