DIABETES NEWS No.151
 
No.151 2016 March/April

「インスリン維新」
ふたたび?!

東京女子医科大学糖尿病センター
センター長
 内潟 安子
 2009年からDPP4阻害薬が市場に登場し、今や7社の製剤が市場を席捲しています。GLP-1受容体作動薬は2010年から登場し、現在3社から発売中です。さらに、前者も後者も週1回投与薬も登場しました。
 2014年には7番目の糖尿病経口血糖降下薬:SGLT2阻害薬が登場し、現在6社から発売されています。また、糖尿病薬2種類の配合薬も発売され、百花繚乱の様相といえましょう。
 さて、インスリン製剤はどうでしょう。2001年に超速効型インスリン製剤が登場し、2003年に持効型溶解インスリン製剤が登場したときは、速効型インスリン(R)と中間型インスリン(N)に慣れていた我々には"インスリン維新"だと感じたものでした。

◆より長くフラットに作用するインスリン製剤
 2003年にランタス®が登場して、後で述べる2001年の超速効型インスリン登場の時と同じく、インスリン製剤の種類によってこんなに生活が左右されていたのかと、患者さんから教えられることが多々ありました。1型糖尿病の生徒さんをお持ちのお母さんから、これでお泊り学習に安心して出すことができると言われた時、これまで無理させていたのだなと反省したものでした。
 ランタス®登場から10年以上経った今、ランタス®でうまく低血糖をおこさず血糖コントロールできていた方の中に、夜中に低血糖を起こす方が出てきました。その一方で、この風潮を見透かすように、よりフラットな持効型溶解インスリンが登場してきました。使用してみますと、夜中の低血糖がなくなったのは言うまでもありません。

◆より速く作用開始するインスリン製剤
 2001年に最初の超速効型インスリンが登場し、その後2種類が登場し、現在3種類の超速効型インスリンを使用することができます。3種類とも超速効型インスリンですが、患者さんによっては3種類の製剤の血糖降下作用の特徴を見抜いて使い分けできる方がいます。微妙ながらやはり違いがあるのでしょう。
 年齢によって食事内容も変わってくるので使い分けをしていくといいのでしょうが、さらにより速く作用開始する超速効型インスリンが開発途上です。

◆なぜ新しいインスリン製剤が次々とマッチするのか
 日本人の食生活の変貌を考えざるを得ません。食生活の欧米化が進んできたことと関連するのではないでしょうか。摂取カロリー自体の大きな変化はないのですが、穀類が減って、肉類、脂質、単糖類摂取が増えてきています(農林省、厚労省)。
 さて、時代の風潮を見透かしているのはどちらなのか??

 

フリッカー網膜電位計
レチバルとは?
東京女子医科大学糖尿病眼科
視能訓練士 福尾 元伸
東京女子医科大学糖尿病眼科
教授 北野 滋彦
◆網膜電図(electroretinogram; ERG)
 これは、光刺激によって、網膜から発生する電位変化を記録する検査法です。視力や視野などの視機能評価は、自覚的な検査ですが、ERGは網膜機能を他覚的に評価することができます。糖尿病網膜症(以下、網膜症)が検眼鏡的に明らかな所見が出現する前にERGに異常が検出されることが古くから指摘されています。
 広く普及しているERG装置は、LEDによる光刺激装置が組み込まれているコンタクトレンズ型の電極を用い、網膜全体から発生する電位を記録します。仰臥位をとって散瞳し、暗順応を20分間行ったのち、麻酔点眼して電極を装着、発光して波形を測定します。
 網膜の機能低下を鋭敏にとらえるのが律動様小波(OP)です。とくにOP1の頂点潜時の延長は、網膜症発症前から観察され、網膜微小循環障害による網膜内層の機能障害を反映しているといわれます。初期の網膜症では、OPの頂点潜時の延長がまず出現し、振幅低下がそれに続くことが報告されています。

◆フリッカー網膜電位計レチバルとは?
 速いフリッカー刺激を用いて記録するフリッカーERGは、網膜全体の錐体細胞系のみの応答を抽出する検査として臨床応用されています。糖尿病網膜症の進行に伴い、このフリッカーERGの頂点潜時が延長するため、有用な検査とされています。しかし、従来のフリッカーERG検査の一番の難点は、長時間仰臥位のまま検査を行い、更にコンタクト電極も装着しなければならないために患者負担が大きいことでした。近年、侵襲の少ない皮膚電極を用い短時間で容易に測定が出来るフリッカー網膜電位計レチバル(メイヨー、RETeval)が市販化され、患者負担が軽減されるようになりました。

◆レチバルを網膜症スクリーニングに?
 私たちは、このレチバルを用いてERG潜時を測定し、網膜症の有無をスクリーニング出来るかどうかを検討しました。同意を得て糖尿病患者さん90名180眼に、レチバルを用いて、無散瞳下でフリッカーERGを記録し、波形の潜時と網膜症の有無との関係を調べました。118眼の網膜症を認めない群の平均潜時は34.4±1.8(ms)で、72眼の網膜症を認める群の平均潜時は37.4±2.5(ms)で2群間に有意差を認めました(P<0.001)。また、福田分類ごとに潜時を比較してみたところ、病期の進行に伴いレチバルのERG潜時が延長していく傾向もみられました。
 次に網膜症を陽性とした場合の潜時のカットオフ値について検討したところ、34.5msをカットオフ値とした場合、Sensitivityは97%、Specificityは54%となりました。  レチバルの特徴は、手持ちで検査が行えるので、寝たきりの患者さんや乳幼児の検査にも有用です。また、無散瞳下でも検査が可能であり、通院後の運転も可能です。より侵襲の少ない皮膚電極を用いての測定が可能で、検査時間も一人当たり2、3分程度ですむため、「簡便で患者への侵襲が少ない検査」といえます。

◆最後に
 「網膜症なしまたは軽症」という情報は、眼科医だけでなく全身的な治療計画を立てる内科医にとっても重要です。網膜症評価は眼科医による眼底検査が必須ですが、レチバルによるフリッカーERG潜時測定は簡便・迅速かつ無散瞳で施行でき、特に潜時が34.5ms未満の場合、「網膜症なし、または軽症」である確率が高く、スクリーニングとして有用と思われ、在宅診療や眼科医の不在な診療の場においても、より簡便なスクリーニング検査として期待されます。

 

明らかにされた
朝食摂取の効果
東京女子医科大学糖尿病センター
医療練士  志村 香奈子
東京女子医科大学糖尿病センター
講師  三浦 順之助
 毎日が忙しく朝通学や出勤までの時間がないからと、朝食を食べない方が少なくありません。平成25年の国民健康・栄養調査では、成人男性で14.4%、女性で9.8%の人が朝食を食べないと回答し、特に20代ではそれぞれ30.0%、25.4%と、高率であることが知られています。
 前夜遅くに夕食を食べたから翌日朝食をなしにするとか、1日の摂取カロリーが同じであれば3食が2食になっていいのではないかなどと考えて、忙しい時期は朝食を欠食してしまいがちです。

◆朝食抜きで食後血糖が上昇
 健常人で朝食を抜くと、体重が増えたり、インスリン抵抗性の増大などの健康障害が起こりやすくなると報告されています。実際、昼食以後の食後血糖値がより上昇し、膵β細胞に負荷がかかり、やがて糖尿病が発症しやすくなると考えられます(Obes Res Clin Pract 2014;8:e201-e298)。更に、朝食を抜く人の多くは、昼食や夕食を食べ過ぎてしまいやすい...。3食規則正しい食事摂取をすることが勧められます。

◆朝食を抜いた影響は夕食後まで続く
 2型糖尿病患者において、朝食を抜くことが血糖コントロールの悪化につながるとの結果が最近報告されました。朝食をたべる習慣がある2型糖尿病患者さんを対象に、朝食を食べた日と、朝食抜きの(欠食)日の日内変動を比較したイスラエルからの報告です(Diabetes Care 2015;38:1820-1826)。
 対象は30〜70歳の2型糖尿病22名で、HbA1c7〜9%、BMI22〜35で、臓器合併症のない患者です。朝食を食べた日と朝食欠食日の2日間の、朝昼夕の各食前食後の血糖、インスリン、グルカゴン、遊離脂肪酸(FFA)、GLP-1の比較が行われました。  その結果、朝食欠食日は、朝食を食べた日と比較して昼・夕の食事カロリーは同一にも拘わらず昼食後・夕食後の血糖上昇が大きく、インスリン分泌は遅延・低下を認めました。また、グルカゴンとFFAは上昇し、GLP-1が低下していることが判りました。食事開始から30分後までの曲線下面積は、朝食欠食日では血糖値が昼食時23.7%、夕食時36.3%の増加があり、インスリンは昼食時49.7%、夕食時39.2%の低下がありました。朝食欠食日のFFAの午前中変動は3時間にわたり朝食を摂取した日と比べ18倍以上増加していることがわかりました。
 朝食欠食日に、昼食後、夕食後の血糖上昇が大きかった理由として、著者らは前日の夕食後からの絶食時間が長いのでFFAが増加しインスリン抵抗性が増強したことや、インクレチン分泌低下が膵β細胞の分泌記憶機能やブドウ糖に対する感受性を低下させ、結果的にインスリン分泌が低下した可能性などを挙げています。
 今回の研究で、2型糖尿病患者における朝食欠食の食後血糖への影響は、夕食後まで長時間影響するということが初めて明確に示されました。

◆朝食の欠食という習慣になれば...
 朝食を抜くという習慣性になれば、さらに血糖変動の概日リズム(Circadian rhythm)を乱すことに繋がることは容易に想像されますので、3食規則正しく摂取する習慣を小児期から指導するべきと考えられます。

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