DIABETES NEWS No.147
 
No.147 2015 July/August

生体内抗酸化物質の妙
―今後の研究に期待―

東京女子医科大学糖尿病センター
センター長 内潟 安子
◆アンチエージング・アンチエージング...
 どこかでアンチエージングサプリメントのことが目に触れる毎日です。若く見られたいという我々の欲望がにじみ出ています。サプリメントを服用しないと、早く老化してしまうのではないかと扇動させられてしまいます。

◆私たちの体内に抗酸化物質あり
 ウィキペデアを見ますと、抗酸化物質とは、生体内、食品、日用品、工業原料において酸素が関与する有害な反応を減弱もしくは除去する物質の総称であると書かれています。抗酸化物質自体は酸化されるので、還元剤、還元薬とも呼ばれます。
 ビタミンC、ビタミンE などのサプリメントを購入しなくても、我々の体内には抗酸化物質が元々あるのですね。

◆体内抗酸化物質と疾患との関連
 代表的なものは尿酸で、人の体内の抗酸化物質による抗酸化能の50%以上を占めるといわれます。尿酸は水に溶けにくく、尿酸が過剰になると体内に尿酸の結晶が生成され痛風の原因になり、また心疾患や腎疾患発症リスク因子にも挙げられますが、逆に尿酸がパーキンソン病や神経変性疾患発症には保護的に作用しているともいわれていました。それをさらに支持する面白い研究結果が2015年に報告されました。
 これは英国の一般医による電子データベースを基にした研究で、痛風群(診断名ないし痛風薬処方あり)と非痛風群を前向きに観察し新規発症アルツハイマー病(AD)患者数を比較した研究です(Ann Rheum Dis 2015)。痛風群は有意にAD を発症しにくいことがわかりました。尿酸値自体との関連は明らかにされていませんが、尿酸の濃度というより高尿酸血症をおこしやすい体質がAD 発症に抑制的に作用しているのかもしれません。
 ビリルビンも体内抗酸化物質のひとつです。体質性黄疸、高ビリルビン血症をきたすジルベール症候群をもつ糖尿病患者さんには血管障害が発症しにくいとか、糖尿病患者さんの血清ビリルビン値と尿中アルブミン排泄値とは逆相関することが報告されていました。今回、糖尿病センター東谷らが、2 型糖尿病患者さんの血清ビリルビン値がアルブミン尿の進展に保護的作用をもつことを前向き研究では始めて明らかにいたしました(J Diab Invest 2014)。

◆今後の研究に期待
 家族性高コレステロール血症患者は糖尿病になりにくいという最近の報告(JAMA, 2015)ともども、私たちの体の仕組みには今もって驚かされます。

 


パーソナルCGM の幕開け

東京女子医科大学糖尿病センター
講師
 三 浦 順 之 助
 日本では2010年4月からに持続糖濃度測定装置(CGMS)が保険適応となり、一般に使用されるようになりました。CGMS-GoldやiPro2という機器です。いずれも糖濃度測定後に初めてその記録を見ることができる記録型CGMで、測定してただちに値を表示(リアルタイム)することはできません。
 実は海外では2004年にリアルタイムに糖濃度を表示する「パーソナルCGM」が実用化されています。本機器は測定した糖濃度を送信するトランスミッターと、無線を介してデータを受け取り解析するレシーバーから成ります。日本では本機器の使用周波数が電波法に抵触したため導入が進まず、海外から遅れること10年、2014年11月にやっと電波法に触れない周波数を用いる機器が導入され保険適応となりました。

◆Sensor Augmented Pump(SAP)
 日本に導入されたのはパーソナルCGM機器とインスリンポンプが一体化したSensor Augmented Pump (SAP)と呼ばれるシステムで、Minimed 620G(Medtronic社製)です。パーソナルCGM機器が測定した値は無線でインスリンポンプ機器の画面に表示されるので、糖濃度の変動を確認しつつインスリン量 の情報も確認できます。この一体化した機器を用いるときは、パーソナルCGM用のセンサーとインスリンポンプ用の細いチューブの2つを皮膚に留置する必要があります。
 本機種の特徴は、日本語仕様になったこと、基礎および追加インスリンの注入速度がより少量から投与可能となったこと(0.025単位刻み)、追加インスリンを急速注入できるようになったこと、一時基礎レートなどの設定をより多くできるようになったこと、加えて自分で設定した低値や高値に近づくとアラートがなること、血糖値の変動速度を矢印で知らせてくれることです。この情報により、使用者はその後の行動を考えた上でインスリン量や、摂取すべき糖質量などを考えたり、糖濃度の変動を見ながら食事や運動をすることができます。また、血糖自己測定する 余裕のない多忙な仕事中に糖濃度を画面でチェックして低血糖予防をすることもできそうです。実際何人かの患者さんから、日中の血糖値が想像と違ったという声が聞かれました。

◆現状と残された問題点
 すでにインスリンポンプを使っていた患者さんは、CGMの部分を追加するだけで済みます。しかし、インスリンポンプを使うのが初めてという患者さんは、ポンプとCGM機能と両方の操作を覚える必要があり、短期間で全てができるようになるのは容易ではありません。そのため、当院ではポンプ機能を理解してからCGM機能へと、段階的に体得していただけるよう外来で指導しています。入院して導入するのが望ましい場合もあります。
 SAP使用時はトランスミッター加算やセンサーの数に応じた持続血糖測定器加算が追加されるため、医療費負担額が増えること、必ず毎月受診する必要があることを患者さんに理解していただく必要があります。また、SAP機器の糖濃度の値は記録型のipro2や血糖自己測定の値とも誤差があることを理解している必要があります。従来の記録型CGMは、前後12時間の較正ポイントを参照して濃度を表示しますが、パーソナルCGMは前12時間の値のみ参照するため、血糖値の誤差が大きくなる可能性があります。その点を理解してもらい、糖濃度に対する冷静な対応をするよう指導することが大切となります。
 SAPという先進的治療もまだまだ不十分な点があります。より効果的に、安全に使用するために、システムの長所・短所を医療者・患者ともに十分理解する必要があります。

 


脂質異常症外来リニューアル

東京女子医科大学糖尿病センター
 長谷川夕希子・中神朋子

◆心血管障害発症に寄与する因子
 脂質異常症(高脂血症)は狭心症や心筋梗塞の発症を促進させる重要な因子です。日本人2 型糖尿病患者の合併症に関する大規模臨床調査(Japan Diabetes Complication Study:JDCS)から、狭心症や心筋梗塞発症に最も寄与する因子はLDL‒コレステロール(LDL‒C)、次いで年齢、中性脂肪(TG)、HbA1c、喫煙の順と報告され、脂質管理は2型糖尿病における大血管合併症の発症予防に極めて重要といえます。

◆2 型糖尿病患者の脂質異常症
 2 型糖尿病やメタボリックシンドロームにおける脂質異常症は、① TG rich リポ蛋白(VLDL、カイロミクロン、それらのレムナント)の増加、② LDL の小型化(small dense LDL)、③ HDL‒コレステロール(HDL‒C)の低下が特徴です。いずれもインスリン抵抗性と強く関連し、動脈硬化発症の危険因子となります。できるだけ糖尿病発症早期に、食事、運動療法でインスリン抵抗性を改善するとともに、適切な薬物療法によって脂質管理目標値(LDL‒C<120 mg/dL、TG<150 mg/dL(空腹時)、HDL‒C≧40 mg/dL)を目指すことが重要です。

◆原発性高脂血症の代表:家族性高コレステロール血症
 家族性高コレステロール血症(FamilialHypercholesterolemia;FH)という疾患があります。これは常染色体優性遺伝形式の高LDL‒コレステロール血症です。FH 患者の動脈硬化の進展速度は、遺伝的な背景のない脂質異常症患者に比べて早いと言われています。未治療なら男性で30~50 歳、女性で50~70 歳に心血管疾患を発症するリスクが高いと報告され、早期に正しく診断し、厳格な脂質の管理(LDL‒C<100 mg/dL)を行い、若年死を予防する必要があります。
 家族性複合型高脂血症(Familial combinedhyperlipidemia;FCHL)は、食事の影響を強く受けてコレステロールとTG 両方が増加する脂質異常症です。やはりインスリン抵抗性と関連し、催動脈硬化性の強いSmall denseLDL が増加するため同様に心血管障害と強く相関します。好発年齢はFH よりすこし高齢といわれますが65 歳以下の日本人心筋梗塞患者の3 割はFCHL 患者であるとの報告もあり、その脂質管理はやはり重要です。
 その他、家族性Ⅲ型高脂血症、家族性Ⅳ型高脂血症などの遺伝性原発性高脂血症がありますが、いずれも食事療法、薬物療法を行って脂質を管理し、大血管障害を予防すべく治療します。

◆脂質異常症外来リニューアル
 本年4 月より、脂質異常症外来をリニューアルしました。毎月第3 金曜日午前中に、FH、FCHL や、糖尿病に合併する脂質異常症であっても通常の治療では管理目標の達成ができない方を対象に集中的に治療しようという外来です。是非、ご紹介ください。

このページの先頭へ