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No.145 | | 2015 March/April |
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食物繊維⇒プロピオン酸⇒
GLP-1上昇⇒内臓脂肪減少
東京女子医科大学糖尿病センター
センター長
内潟 安子
前号で、クオリティ・オブ・ミールという概念を紹介がてら食事について書きました。
日本食をはじめアジア伝統食は食物繊維が豊富です。医療機関での栄養指導には、食物繊維をよく摂りましょうの一言が加えられます。
◆食物繊維への考え方の変遷
古代ギリシャの時代に既に小麦のふすまが便秘に良いことがわかっていたそうです。しかし、食べ物のカスと考えられ、また食物繊維が多いと食感が良くないので敬遠もされてきました。
1930年代になって、食物繊維と便秘や大腸炎との関連、食物繊維と心臓疾患や動脈硬化疾患との関連に注目がいくようになり、1971年バーキットが摂取量と大腸がんリスクとの関連を発表しました。
このように、食物繊維は腸の蠕動運動を盛んにし便通を良くする他に、消化管内の水分保持、脂肪やコレステロールの吸着、食後の血糖上昇やコレステロール値の抑制と、良い事尽くめです。
◆腸内細菌によって消化される食物繊維
草食動物では重要なエネルギー源である食物繊維をヒトは自力では消化できませんが、消化管内の腸内細菌が食物繊維を嫌気発酵して、酪酸やプロピオン酸などの短鎖脂肪酸を生成して、これらの生成物から糖新生系を介して、エネルギーを得ていることが知られています(1gあたりせいぜい2kcalくらい)。このエネルギー生成は食後長時間をかけてゆっくり行われるので、食物摂取をしていない時間が長くても低血糖になりにくくなります。
◆短鎖脂肪酸―特にプロピオン酸に注目
ヒトの大腸内の善玉腸内細菌は植物繊維を発酵という形で分解し、短鎖脂肪酸を生成します。そのうち最も炭素数の少ないものがプロピオン酸です。反芻動物はプロピオン酸が最大のエネルギー源といわれます。
腸内で生成された短鎖脂肪酸は、L細胞に存在するGプロテインとカップリングした遊離脂肪酸受容体(FFAR)2を介して腸ホルモンペプチドYY(PYY)やGLP-1を分泌促進させることが知られています。そして、プロピオン酸がFFAR2と最も親和性の高い短鎖脂肪酸と知られていることを利用して、肥満者にプロピオン酸を投与をした研究が報告されました。その結果、食欲を調節し、肥満者の体重を減量させ、内臓脂肪を減少させることができたとのことです(Gutonline.2014)。
◆だんだん明らかにされる摂食の調節
肝臓、膵臓とともに視床下部にも存在するグルコキナーゼが食欲調節をする(JCI,online,2014)、さらにグルカゴンが求心性迷走神経を介して満腹感などを脳に伝える(BBRC,online,2014)こともわかってきました。目が離せない領域になってきました。
糖尿病性神経障害の争点
―筋萎縮症と治療後有痛性神経障害について―
東京女子医科大学
東医療センター内科 教授 高橋良当
◆糖尿病性筋萎縮症(DA)の概念の変遷
疼痛を伴い、腰大腿部近位筋の筋力低下と筋萎縮、腱反射低下を主徴とする症候群を1955年Garlandが糖尿病性筋萎縮症(DAと略す)と初めて提唱しました。一方、1960年代の日本では慢性に経過し高度な多発神経障害に随伴した近位筋萎縮をDAと考えていました。しかし、発症の仕方、対称性や疼痛や感覚障害の有無など海外でも異論反論が続出し、1977年Asberyが筋肉障害を表すDAを改めてproximal diabetic neuropathy(PDN)を提唱しました。ところが1999年、DyckがPDNを糖尿病性腰仙部根叢神経障害(DLRPN)と称して免疫異常による血管炎であると唱え、γグロブリンを使った免疫療法を行いその有効性を報告したために、GarlandのDAはDLRPNであるという説が一気に世界中に広がりました。しかし、Dyckらが米国で実施したDLRPNに対する免疫療法の二重盲検試験では有意な結果が得られませんでした。日本ではこのDLRPN類似の症例に対してγグロブリン療法の有効性を主張する報告がありますが、自然軽快もあるので科学的に怪しいです。また、日本では報告された1例を除き神経組織内の血管炎像は認められておりません。
日本のDAは血糖コントロールの悪い、やせた中高年男性に多くみられ、しゃがみ立ち困難や階段昇降困難などの自覚症状を認め、多発末梢神経障害を有し、四肢末梢の筋萎縮も併発することが多い慢性例が圧倒的に多く、インスリンによる血糖コントロールで軽快しています。
このように、糖尿病性筋萎縮症には2つの病態があり、発症機序と治療法が大きく異なることに注意すべきであり、糖尿病性筋萎縮症という病名は慎重に使用してください。
◆PPNと治療関連神経障害
治療後有痛性神経障害(post-treatment painful neuropathy;PPN)は糖尿病の治療(血糖コントロール)を急激に行った後にみられる有痛性神経障害です。Painとは疼痛だけでなく、しびれや冷感などの苦痛を表わす言葉であることは国際常識です。ところが、海外ではPPNという言葉を使わず、Treatment-induced(related)diabetic neuropathy(治療関連神経障害)と称しています。海外では1型糖尿病女性に多く、ほとんどが人生上の大事件(恋人や身内の死など)を契機に患者自身が食事療法やインスリン療法を厳格に行い、PPNを発症していることが判明しました(Christopher H,et al.Ann Neurol 2010:67;534)。さらに食欲低下や自律神経障害の併発も多く、可逆性であることを特徴とするとのことで、本邦のPPNとは異なる側面もあります。いずれにせよ、医師主導の糖尿病治療で発症することの多い日本のPPNは言わば医原病であり、患者主導で発症する海外のPPNは正に治療関連神経障害であり、PPNと言いたくても言えないわけです。PPNが本邦に多く、海外で少ない理由も自ずと推察されます。
PPNの原著は1933年insulin neuritisと題する1例報告とされており、今でもPPNをinsulin neuritisと称する研究者もおります。確かに病像はPPNに酷似していますが、その正体はインスリンアレギーであることが原著から伺えます。
◆治療後網膜症も同じ?
治療後神経障害は治療後網膜症と同様、我が国特有の医療環境が生んだ医原病かも知れません。しかし、もしかしたら、血糖変動による糖尿病合併症が日本人で発症し易いのかも知れません。糖尿病には未解決の問題や未発見の事実がまだまだあることを痛感します。
薬疹の考え方
東京女子医科大学皮膚科学 准教授
常深祐一郎
昨今、糖尿病新薬による薬疹が副作用として注目されています。
◆薬疹の考え方と診断
薬疹を起こさない薬剤はありません。また、薬疹は多彩な臨床像と組織像をとるため、そこから原因薬を推定することや、薬疹を否定することは困難です。薬疹の診断に最も重要なのは詳細な薬歴です。皮疹出現時に使用していた薬剤は全て被疑薬となります。もちろん、リンパ球刺激試験(DLST)、皮膚テスト(プリックテスト、スクラッチテスト、パッチテスト、皮内テスト)、内服テスト等の検査法がありますが、内服テスト以外は偽陰性が多く、「陰性=原因薬剤ではない」とはいいきれません。最終判断には注意しながら再投与を行うこともありますが、通常は薬歴、検査などから総合的に薬疹を診断することになります。
◆重症薬疹-粘膜症状は早期に眼科へ!
重症薬疹にはStevens-Johnson症候群(SJS)、Toxic Epidermal necrolysis(TEN)、薬剤性過敏症症候(DIHS)があります。SJSとTENの皮疹は多形紅斑で、表皮の壊死が強く、水疱やびらんとなり、粘膜疹や発熱等の全身症状を伴います。皮疹面積が体表面積の10%未満のものをSJS、10%を超えるとTENと定義され熱傷と同じ状態になります。粘膜症状(眼、口唇・口腔・咽喉頭、外陰部)は重症のサインですので、強めの治療をすぐに開始しなければなりません。また、眼症状(初期は充血など)は視力障害という後遺症を残すことがあるため、早期から眼科へのコンサルトが必須です。
DIHSは特定の薬剤、特に抗けいれん薬投与後に皮疹が遅発性に生じて急速に拡大します。発熱や肝機能障害、血液学的異常(白血球増多、異型リンパ球出現、好酸球増多)、リンパ節腫脹を伴いますが、最大の特徴はHHV-6の再活性化です。薬剤中止後も症状が遷延化し、再燃がみられ、腎障害、糖尿病、脳炎、肺炎、甲状腺炎、心筋炎等の多臓器障害をきたすことがあり、注意します。
◆SGLT2阻害薬による皮疹
SGLT2阻害薬で最も多い有害事象が皮疹であるといわれています。中にはSJSに至った例もあります。日本糖尿病学会より「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」が出され、皮疹が出現したら薬剤中止が強く推奨されています。皮疹は、薬物開始1日目からの報告もあり、数日以内の出現症例が多く感作期間がないことから薬理作用そのもの(非アレルギー性)が想定され、他のSGLT2阻害薬に変更しても皮疹を生じる可能性があります。用量依存性も考えられますが現時点では推測の域を出ません。一方、投与開始後1週間目以降の皮疹出現ならアレルギー性の可能性も考えます。アレルギー性なら減量しても皮疹は出現しますし、構造式が類似していると交差して皮疹が出ることも想定されます。SGLT2阻害薬については今後詳細な検討が必要でしょう。
◆薬疹の評価と治療
薬疹を疑った場合には①皮疹出現時に使用していた全ての薬物の開始時期、②皮膚症状の発現時期と経過、③全身症状(発熱、リンパ節腫脹など)の有無、④粘膜症状の有無、をチェックしてください。治療はまず原因薬の中止。そして皮疹や全身症状の重症度に応じて、ステロイド外用(very strong、strongest)、ステロイド全身投与(PSL0.5-1.0mg/kg)、ステロイドパルス、血漿交換、免疫グロブリン大量療法、集中治療となります。