DIABETES NEWS No.143
 
No.143 2014 November/December

糖尿病における医療連携と
世界糖尿病デー

東京女子医科大学糖尿病センター
センター長
 内潟 安子

 厚労省「健康日本21」に続く地域における糖尿病の医療連携事業の一環として、誰もが身近な医療機関で最適な糖尿病治療が受けられるように、そして合併症を予防できる医療体制を整備するために、東京都でも糖尿病連携のネットワークづくりが加速してきました。 それと連携して、各地域での医療連携をさらに強化していこうという動きがでてきています。

◆医療機関自ら特徴を発揮する
 本年4月の診療報酬改訂をみますと、病院機能分化、病診連携、地域連携を進める厚労省の方針が見えます。地域のクリニックには十分なフットワークのいい診療を、特定機能病院には、総合診療能力、高度の医療の提供、高度の医療技術の開発、高度の医療に関する研修という役割です。まだまだ増えている糖尿病患者さんに十分満足していただく医療を提供するために、自らの役割を十分に果たしていくことは、医療連携を強化しようという動きと連動しています。

◆「糖尿病センターとの病診連携の会」の世話人を強化
 平成12年10月に第1回糖尿病センターとの医療連携の会を開催し、本年5月に第45回を開催しました。患者さんのご紹介は紹介状を介して完結できるわけですが、やはり医師どうしが実際に顔を合わせるということが大事です。「先日ご紹介いただいた先生ですね」とか、「今度、是非先生に紹介したい患者さんがおられまして」と、直接言葉を交わすことは何にも替えがたいものです。患者さんが通院しやすいクリニックと専門的な医療を提供する医療機関は、このような場を通じて、それぞれの特徴を生かし患者さんにとって便利な医療を提供していくことを、推進していかなければなりません。
 第46回本会から、患者さんの近隣区の先生方とさらに連携を強めることができるようにと、近隣の区医師会の先生方にも世話人に加わっていただき、さらに連携を強めていこうと思っています。

◆東京都区西部糖尿病医療連携検討会の市民講座と東京都糖尿病協会城西地区ブロック糖尿病教室を東京女子医科大学公開健康講座と一緒に開催
 11月14日は世界糖尿病デーです。各地の名所旧跡がブルーライトアップされます。
 糖尿病の啓発促進のシンボルはブルーサークルです。因みに乳癌の啓発はピンクリボン、移植医療の啓発はグリーンリボンです。
 11月15日の午後に、「みんなでサポートする糖尿病」というテーマで、東京女子医科大学公開健康講座を開催します。東京都区西部検討会の市民講座、東京都糖尿病協会城西地区ブロック糖尿病教室も兼ねます。どなたでも参加できます。(詳しくは≪こちら≫
 和食を見直す機会でもあり、ちょっとした体を動かす機会にもなり...。お越しをお待ちいたしております。
 

果糖と痛風と2 型糖尿病

東京女子医科大学附属
膠原病リウマチ痛風センター 教授
 谷口敦夫

 ご存知のように痛風は2型糖尿病と同じくその背景にメタボリックシンドロームをもつ疾患です。実際、痛風の患者さんを前向きに観察すると一般集団と比較して2型糖尿病を1.5倍ほど発症しやすいことが示されていますし、無症候性高尿酸血症も2型糖尿病発症のリスクとされています。このことは、痛風・高尿酸血症と2型糖尿病の発症に何らかの共通要因があることを示しています。そのひとつに果糖があげられます。
◆果糖摂取と尿酸代謝
 痛風は高尿酸血症が持続し、このために関節内に尿酸塩結晶が慢性的に沈着することで生じる疾患です。高尿酸血症は痛風発症の最も大きい要因なので、果糖が痛風に関係するならば、血清尿酸値にも影響があるはずです。

 体内に吸収された果糖は肝臓で代謝されます。最初のステップでフルクトキナーゼ(ケトヘキソキナーゼ)によりATPからリン酸が転移されて果糖の代謝が始まります。このステップはフィードバック機構がないために果糖が利用できる限り動き続けます。このためにATP濃度が低下するので、これを補うためにADPがリン酸化されます。このときに無機リン酸が大量に消費されるので、細胞内で無機リン酸濃度が低下します。これがアデニンヌクレオチドの分解を進め、尿酸の生成が増加します。

◆果糖摂取と血清尿酸値・痛風
 果糖を投与すると血清尿酸値が上昇するということは以前から知られており、動物実験や少人数での果糖投与による研究が行われていました。しかし、最近では大規模疫学調査での結果が発表され、日常臨床において果糖が血清尿酸値に及ぼす影響が注目されるようになりました。米国の約14,000人の横断研究では砂糖添加ソフトドリンクを1日4本以上摂取すると、血清尿酸値が0.42mg/dl上昇することが示されました。これは、同じ調査対象者を用いた研究でビール毎日小瓶1本の摂取で上昇する血清尿酸値とほぼ同じです。興味深いことにダイエットソフトドリンクは血清尿酸値に影響しませんでした。ただし、果糖摂取と血清尿酸値の関係は報告によって必ずしも一致していません。これには食品の分類や高尿酸血症の定義の違いが関与している可能性があります。
 一方、果糖と痛風の関係については、米国での痛風の既往がない男性約46,000例を12年間追跡した報告があります。砂糖添加ソフトドリンクを毎日2本以上飲むと痛風発症リスクが1.9倍高まることが示されました。やはりダイエットドリンクは痛風のリスクにはなりませんでした。フルーツジュース(オレンジやアップルジュースなど)については1日2杯以上の摂取で痛風リスクが1.8倍高くなります。果実(オレンジあるいはリンゴ)毎日1個の摂取でも同様のリスクがあります。砂糖添加ソフトドリンクと痛風発症との関連は最近ニュージーランドでも報告されています。

◆果糖に注意して痛風と糖尿病の減少を
 上述のような一連の疫学研究は2008年頃から始まっています。このために、最近発表された各国の痛風治療ガイドライン(または推奨)ではいずれも果糖摂取あるいは砂糖添加ソフトドリンクを控えるように記載されています。
 果糖は2型糖尿病発症のリスク因子ですので、痛風患者における果糖摂取制限は血清尿酸値のコントロール改善とともに、痛風からの2型糖尿病発症の予防になるものと期待されます。

 

β細胞に対する
Glucagon like peptide
(GLP)‒1 作動薬の作用
東京女子医科大学
糖尿病センター内科
 尾形真規子
GLP-1 は膵島のα細胞で産生されるグルカゴンと共通の前駆体(プログルカゴン)から、主に腸の内分泌細胞(L 細胞)でプロセッシングされて産生されます。数ある消化管ホルモンのうちインスリン分泌を強める作用をもつインクレチンのひとつです。生理的濃度で認められたGLP-1 のインスリン分泌機能がGLP-1(1-37)ではなくGLP-1(7-37)であったために、以後GLP-1 というとこのGLP-1(7-37)ないしGLP-1(7-36)を指すようになりました。活性型GLP-1 とも呼ばれます。血中のDPP-IV という酵素によって短時間で不活化され、GLP-1(9-37)ないしGLP-1(9-36)となります。

◆ GLP-1 による食後のインスリン分泌機能
GLP-1 受容体作動薬は、酵素DPP-IV によって分解されないようにGLP-1(7-37)構造のうちのGLP-1 受容体へ結合する部位を加工したものです。GLP-1 もGLP-1 受容体作動薬もGLP-1受容体に結合するわけですが、結合することによってアデニル酸シクラーゼが活性化され、cAMP が産生され、プロテインキナーゼA(PKA)依存性経路とEpac2 依存性経路を介して食後のインスリン分泌を増強させると知られています。

◆ GLP-1によるβ細胞傷害から守る効果
GLP-1 にはインスリン分泌増強効果の他に、β細胞を傷害から守る機能が動物モデルで報告されています。この効果はミトコンドリア膜機能を介して発揮されると報告されています。われわれは、生きた細胞のミトコンドリア膜pH を継時的に定量できる系を作成しました(Ogata M:BBRC 2012)。培養β細胞(MIN6 細胞)にエチヂウムブロマイド(EtBr)少量を48 時間添加してミトコンドリアに特異的な傷害を起こすと、ミトコンドリア膜のブドウ糖によるpH 反応が認められなくなるのを確認しました。このミトコンドリア傷害β 細胞モデル(EtBrMIN6)に、GLP-1(7-37)あるいはGLP-1 受容体作動薬のリラグルチド(Lir)を投与して、ブドウ糖に対するミトコンドリア膜pH 反応性がどのように回復するのかを検討しました(Ogata M:BBRC 2014)。GLP-1(7-37)をブドウ糖とともに培養液中に添加すると、正常MIN6 細胞のミトコンドリア膜の反応は増強されましたが、EtBrMIN6 では減弱したままでした。次にGLP-1(7-37)の代わりにLir を添加します。ブドウ糖との同時投与では正常MIN6 細胞のミトコンドリア膜反応性は変化しませんでしたが、Lir を3 時間前から投与しておいてブドウ糖を投与すると、EtBrMIN6 細胞のミトコンドリア膜の反応性が回復することが認められました。同様の効果はGLP-1(1-37)では認められましたが、GLP-1(7-37)投与では認められません。しかしGLP-1(7-37)を3 時間前から少量ずつ数回に分けて添加すると、EtBrMIN6 細胞のミトコンドリア反応性の回復効果が得られました。この結果から、GLP-1(1-37)はインスリン分泌増強作用は低いながら、β細胞機能保持に寄与する可能性があること、またGLP-1(7-37)およびLir は、緩徐に作用することでβ細胞のミトコンドリア傷害を回復させることが示唆されました。

◆ GLP-1 のヒトβ細胞回復効果
ヒトにおけるこの効果はいまだ実証されていません。GLP-1 受容体作動薬の更なる研究が望まれます。

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