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第73 回ADA@シカゴから
東京女子医科大学糖尿病センター内潟 安子
センター長◆DCCT開始30周年DCCTの結果がラスベガスで開催されたアメリカ糖尿病学会(ADA)で発表されたのは1993年。DCCTはその後、糖尿病の治療戦略に決定的な役割を果たしました。調査開始が1983年でしたので、本年はDCCT開始30周年といえます。本年ADAにて、DCCT/EDIC30周年記念シンポジウムが開催されました。
登録開始時の1型糖尿病患者数は1441人ですが、今なお95%の患者さんがDCCT後のEDIC調査に参加していることは驚異です。EDIC時代になってもDCCT時代の強化療法群が同時代の保存療法群より、いまなお細小血管障害も大血管障害も有意に発症しにくいとのことです。約10年間の良好な血糖コントロールが20年経過した今も合併症発症を有意に抑制していたのです。
◆生活介入して減量しても‥100kg超の2型糖尿病患者さんの食事運動強化療法(強化群)による体重減量が心血管疾患や脳卒中の発症を抑制するという仮説のもとに、約10年かけて行われたlookAHEAD試験の最終結果が発表されました。 強化群の体重やHbA1cは有意に低下したのですが、残念ながら心血管疾患や脳卒中を抑制することができませんでした。当初は有意に低下した強化群の血清脂質ですが徐々に高値化したことや、対照群にスタチンやACE阻害薬が多く使用されていたことなどのためと解釈されています。今後のサブ解析が待たれます。
◆カーボカウントだけで済まない?カーボカウントだけでHbA1cが良くならないのでは?と言われ始めています。グライセミックインデックス(GI)、たんぱく質のカウント、脂質のカウントもボーラスインスリン量を決めるときに斟酌すべきでは?と討論されました。
◆腸内細菌叢とインスリン抵抗性腸の重要性はインクレチンの役割を見てもよくわかるところですが、実は腸内細菌叢も糖代謝に関与していることが明らかになってきました。抗生物質にて健常人の腸内細菌叢を除菌したら食後血糖やインスリン値が低下したという報告がありました。このメカニズムの解明が待たれます。
◆It is not Pump, not Pen.パッチポンプという電池で動くデイスポのポンプが学会展示会場に登場したときはびっくりしたものですが、今回はポンプではない、ペンでもないデバイスが登場しました。電池も使用しない油圧ポンプの原理です。大きさはパッチポンプの大きさですが、毎日使い捨てタイプです。デバイスはこれからも進化するでしょう。
糖尿病性腎症に対する
スピロノラクトンの効果
東京女子医科大学糖尿病センター 講師馬場園 哲也
スピロノラクトン(アルダクトンA®)は、1978年(昭和53年)に薬価収載された、古い降圧薬です。古典的には利尿薬に分類されていますが、利尿効果はそれほど強くありません。最近では、アルドステロン拮抗薬あるいはミネラロコルチコイド受容体(MR)拮抗薬と呼ばれています。これまでスピロノラクトンは、原発性アルドステロン症以外に、心不全、腹水、高度浮腫などの二次性アルドステロン症をきたす疾患に対して、フロセミドなどに併用されることが多かったと思 われます。
◆スピロノラクトンの臓器保護効果最近スピロノラクトンの臓器保護効果が注目されています。1999年に報告された、Randomized Aldactone Evaluation Study(RALES)では、スピロノラクトンが重症心不全患者の予後を有意に改善することが報告されました。慢性腎臓病(CKD)に対しても、ACE阻害薬あるいはARBにスピロノラクトンを併用することによって、アルブミン尿(蛋白尿)が著しく減少することが明らかにされています。
◆糖尿病性腎症にも有効?そこで私たちは、糖尿病性腎症患者に対しても、スピロノラクトンが有効であるかどうかを検証する目的で、前向きの介入試験を行いました。すでにACE阻害薬あるいはARBを服用中の2型糖尿病性腎症患者を対象とし、スピロノラクトン25mgの投与前後におけるアルブミン尿の変化を観察したところ、24週間後にアルブミン尿が58%も減少しました(J Diabetes Invest4:316、2013)。糖尿病患者におけるアルブミン尿の減少は、末期腎不全への進展抑制だけではなく、心血管イベントの有意な減少とも関連することが知られています。糖尿病性腎症患者においても、スピロノラクトンが臓器保護作用を示す可能性が期待されます。
◆注意すべきスピロノラクトンの副作用スピロノラクトンを長期に使用する上での問題点として、高カリウム血症と性ホルモン受容体関連の副作用があります。スピロノラクトンが容易に血清カリウムの上昇をきたすことは、古くから知られています。腎機能低下例やACE阻害薬/ARBとの併用では、高カリウム血症の頻度が特に高くなることから、注意が必要です。
なお血清カリウムが上昇しても、蛋白尿が減少し、スピロノラクトンの腎保護効果が明らかな場合には、カリメート®などの陽イオン交換樹脂を使用しながら、スピロノラクトンを慎重に継続することもあります。
スピロノラクトンは、性ホルモン受容体にも結合するため、女性化乳房や乳房腫脹、性欲減退、月経不順、無月経などの副作用を誘発することもあります。そのため、MRに対する選択性が高く、このような副作用がないエプレレノン(セララ®)が開発されました。しかし残念ながら、微量アルブミン尿または蛋白尿を伴う糖尿病患者、および中等度以上の腎機能障害のある患者では、高カリウム血症を誘発させるおそれがあるため、禁忌とされました。
◆新たな治療戦略に!糖尿病性腎症は、わが国で透析を行っている約30万人のCKD患者さんのうち、第1位の原疾患です。スピロノラクトンという古い薬が、糖尿病性腎症に対する新たな治療戦略の一つとして加えられ、ひいては将来の透析導入抑制につながることを期待したいと思います。
1 型糖尿病における
皮膚AF 値の評価
東京女子医科大学糖尿病センター 講師三浦 順之助◆アマドリ化合物が血糖管理指標ブドウ糖のカルボニル基(C=O)がアミノ基(NH2)と反応すると、シッフ塩基(C=N)を経て、安定なアマドリ化合物(C‒N)ができます。代表的なアマドリ化合物はHbA1cやグリコアルブミンで、糖尿病の血糖管理の指標として世界中で使用されています。更に脱水・縮合を繰り返して不可逆的になったものがAdvanced Endproducts(AGEs)です。
AGEsの蓄積が糖尿病性血管合併症の発症・進行と関連していることは周知のことですが、最近は認知症や動脈硬化などの加齢性疾患の発症・進行や発癌にも関連することが報告されています。
AGEs物質には測定が保険適応になっているペントシジンとCML(Carboxy‒methyllysin)以外にも数十種類あります。それらをまとめて簡便かつ非侵襲的に皮膚のAGEs(以下皮膚AF値)を測定できるAGEreader®が開発され、西欧人で皮膚AF値と皮膚生検組織中のAGEs値が正相関することが2004年に報告されました。
◆過去の血糖コントロールを反映する皮膚AF値当センター通院中の1型糖尿病患者さん(平均年齢36.7歳、糖尿病罹病期間平均18.2年、平均BMI23.2)に協力してもらい、皮膚AF値を測定しました。HbA1c AUC(曲線下面積)値を算出し、過去の血糖コントロールの積算としました。皮膚AF値は、もちろん測定時のHbA1c値と相関しました。ところが、過去3年間のHbA1cAUC値、過去5年間のHbA1cAUC値、過去10年間のHbA1cAUC値、過去15年間のHbA1c AUC値と、過去に遡れば遡るほどに相関が強くなることが判りました。
◆糖尿病性細小血管障害の重症度と相関糖尿病網膜症の重症度は過去3~15年間のHbA1cAUC値と有意に正相関しました。 同じく、糖尿病腎症の病期分類による重症度とも有意に相関しました。多変量解析を行った結果、年齢、糖尿病発症年齢および皮膚AF値が独立した網膜症危険因子として挙げられ、独立した腎症危険因子としてやはり皮膚AF値が挙げられました(Sugisawa E,et al.Diabetes Care in press,2013)。
◆熊本宣言2013日本糖尿病学会は本年5月の年次学術集会にて、「熊本宣言2013―あなたとあなたの大切な人のためにKeepyourA1cbelow7%」を発表しました。合併症の予防の目標値です。そして、血糖正常化を目指すならHbA1c 6%未満に、治療強化が困難場合でもHbA1c8%未満にという目標も治療ガイド2012‒2013に掲載され、本年6月1日から運用開始となりました。
臨床の場で図らずも合併症が進行してしまった時、今後どの程度の血糖改善がなされれば合併症の進行を抑えうるか?この指標もほしいところです。HbA1c、AGEsというすばらしい指標の意義を見出すことができた現在、今後はさらに合併症発症や進展抑制のための簡便な新しい指標の発見が期待されます。
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