DIABETES NEWS No.133
 
No.133 2013 March/April

予備のインスリンを
身につけて

東京女子医科大学糖尿病センター
センター長
 内 潟 安 子
◆地震大国日本
 この90年弱の間に4回の大震災に見舞われた日本。1923年の関東大震災、1995年の阪神・淡路大震災、2004年の新潟県中越地震、そして、2011年3月11日の東日本大震災。東京でも小さな地震はちょくちょくあります。困ったことに震度3くらいではびっくりしなくなっているようです。新しい年を迎えて物騒な話しですが、遠からず来る大地震に備えねばなりません。

◆ミニチラシを薬袋の中に
 日本糖尿病協会インスリンケアサポート委員会(協会理事長 清野裕、委員長 内潟安子)の事業のひとつとして、昨年初夏には新宿区内、11月初冬には港区、そしていろいろな区内の大病院の薬局・院外薬局、都外では和歌山県で、インスリン処方時にミニチラシ(写真)を同封して、「災害に備えて、インスリンの予備を数か所に分けて持ちましょう!」キャンペーンを展開しています。処方の度にすこしずつインスリンが余っても定期に受診し、あちこちに保管してもらう、そして古いものから順繰り使用してもらうことをお願いしています。通勤途中、外勤中、出張中に地震に遭うこともあります。自宅だけに保管しないように、カバンの中にもいつも保管します。生活環境にもよりますが、2週間分のインスリン保管が望ましいところです。
◆危機時の薬剤の流通や情報の流れ
 東日本大震災の際も、行政、医療従事者はもちろん、製薬企業全社、医薬品卸企業の皆様は、被災地に薬剤を届けようと多大な努力をされました。後になって貢献が明らかになった会社も多くありました。
 こうすればさらによかっただろうということも多々ありました。しかし、あの緊急時にはしようがなかった。委員会では日本糖尿病学会や企業と連携して災害時のインスリン供給支援のための連絡網を早急に作成することになっています。
◆ペンライトと「災害時1,2,3」パンフ
 日本糖尿病協会会員の皆様には、2012年にペンライト(インスリン使用者には青色、それ以外者には白色)と「災害時1,2,3」パンフが配布されました。これからでも遅くありません、クリニックに日糖協の友の会ができますと会員登録ができ、これらをもらうことができます。
◆お薬の名前をしっかりと!
 薬の種類が多く、名前も覚えにくいものが多いですが、「携帯」に名前や形状を取り込んでおくのも、とっさの時には一助になります。
 

妊娠糖尿病の診断基準変更後
2 年を経て

東京女子医科大学糖尿病センター
講師
 佐中 眞由実
◆妊娠糖尿病の定義と診断基準
 2010年7月に妊娠糖尿病の定義と診断基準が変更になりました。定義は「妊娠中に初めて発見または発症した糖尿病にいたっていない糖代謝異常」であり、妊娠時に診断された明らかな糖尿病は含めません。診断基準は「75gブドウ糖負荷試験(75gOGTT):空腹時血糖値≧92mg/dl、1時間値≧180mg/dl、2時間値≧153mg/dlの1点以上を満たした場合」になりました。従来の定義と比べ、診断基準の数値がわずかに変更し、さらに以前の「2点以上異常値があること」から「1点以上異常値があること」となりました。
◆妊娠糖尿病の有病率の上昇
 診断基準の変更により、診断される妊婦さんの比率が全妊婦さんの約12%となり、従来の3~4倍増加したことが報告されました。さらに診断された90%以上が「1点異常」であることも報告されています。当センターでも2012年には30例を超す1点異常の妊娠糖尿病妊婦さんの内科的管理・治療をしております。
 妊娠中の母体の高血糖は母体だけでなく胎児にも影響を及ぼすため、妊娠中は健常妊婦さんの血糖値に近づくように治療します。血糖コントロール目標は、食前≦95mg/dl、食後≦140mg/dl、食後2時間≦120mg/dlが世界的に推奨されています。
◆妊娠糖尿病の内科的管理・治療
 まず食事療法から開始します。胎児が順調に成長するために、必要なエネルギー量を摂取することと栄養バランスがよいことが大切です。過度の食事制限をすることは望ましくありません。食事療法のみで血糖コントロール目標を達成できない場合にインスリン療法を開始します。
◆血糖自己測定と保険診療
 血糖自己測定は血糖コントロール目標を達成しているかどうかを知るために必要です。しかし、わが国では食事療法のみでは血糖自己測定は保険診療として認められていません。「妊娠時に診断された明らかな糖尿病」「highriskGDM(75gOGTT2時間値≧200mg/dl、でHbA1c(NGSP)<6.5%)」の場合食事療法のみであっても、血糖自己測定は保険診療で認められています。よって、妊娠糖尿病のほとんどを占める「1点異常」の妊婦さんには血糖自己測定を保険診療で行うことが出来ません。また10万人を超すと推定される妊娠糖尿病妊婦さん全員に血糖自己測定を行うことも医療経済的に困難です。
 日本糖尿病・妊娠学会では、妊娠糖尿病の食事療法のみの妊婦さんに血糖自己測定器を貸与し一定の治療方針下の結果を検討して今後の治療に活かすべく、ワーキンググループを立ち上げました。この結果が明らかになれば、糖尿病専門医が主になって治療するのではなく、糖尿病専門医以外の内科医、産科医が栄養士さんとのチームワークで多くの妊娠糖尿病の診療を安心して行うことが出来るようになると期待されます。
 定期来院時は血糖値、HbA1c、グリコアルブミンを参考に血糖管理に努めますが、2012年1年間の「1点異常」の妊娠糖尿病妊婦さんの約半数がインスリン療法を行っていました。妊娠時のインスリン療法に不安な場合には専門医へご紹介下さい。
◆妊娠時の血糖値と栄養
 子宮内環境は児の一生を左右することが報告されています。母体の栄養状態に注意を払い、健常妊婦の血糖値に近づける管理をしていくことが次世代の子供達のために重要であることを再度認識して頂きたいと思います。
 

最近の糖尿病眼科
における試み

東京女子医科大学糖尿病センター眼科
助教
 関本 香織
◆DIACET―糖尿病眼科
 糖尿病患者さんへのアンケート調査には、海外では前向きランダム化対象比較試験という形式でよく実施されています。しかし、患者登録時の選択バイアスや人種差など、我々の日本人を対象とする実臨床とは合わない部分が多々あり、隔靴掻痒の思いをします。
 糖尿病センターの、実際の、今現在の、治療成績について、様々な角度から解析し、世の中に発信するためのデータベースをつくりたいという強い思いから、糖尿病センターのスタッフ全員が総出でおこなう「糖尿病診療に関する実態調査―DIACET」が始まりました。
◆DIACETの中で糖尿病眼科医は?
 糖尿病センター眼科の患者さんは、糖尿病センター内科(糖尿病・代謝内科)と併診をされる方が多く、定期的な受診ができる方が多くおられます。しかし、中には「忙しくてなかなか来られなかった」「見え方が変わりなかったので・・」ということで、数年ぶりに受診をされる方もけっこうおられます。その中に、かなり進行した糖尿病網膜症が発見され、治療を始めてもなかなか進行を抑えることができない場合もあります。内科受診のために、糖尿病センターまで来院しているのに、残念なことです。
 では、定期受診の大切さをどのようにしたら理解していただけるのか? ここが網膜症を発症・進行させない一番大事なところで、日本中の糖尿病網膜症を専門にする眼科医の苦労するところです。糖尿病眼手帳が流布している今日でも、この点がなかなか解決されません。
 網膜症の程度は診察時に口頭やメモを交えて説明しておりましたが、今回のアンケート調査でこれまでのやり方でどの程度ご理解しておられるかを調査し、また新たに昨年初秋から「網膜症病期分類メモ」を作成し、眼科診察終了後に説明しながら患者さんに渡すことを開始しました。この用紙には網膜症の進行度が福田分類でわかりやすく記載されています。病期は単純網膜症(福田A1・A2)、増殖前網膜症(B1)、増殖網膜症(B2・B3・B4・B5)と進行し、適切な時期に薬物治療や光凝固治療、手術治療を行った後に鎮静化すると増殖停止網膜症(A3・A4・A5)になります。各病期は進行度によって(軽症・重症単純網膜症)(早期・中期・末期増殖網膜症)と説明されています。眼科医は診察時にDIACETの目的を患者に説明し、病期分類メモに○をつけてDIACETアンケート用紙と一緒に渡します。そして網膜症が今どの時期にあるのかを説明します。患者さんはアンケートを持ち帰り、自宅で記入する際に、「再度」このメモを見て網膜症の病期を確認することになります。再度、ご自分の網膜症の状況を理解することになります。
◆眼科の立場からDIACETに期待すること
 「線がゆがんで見える」「かすんでいる」「視野が欠けて見える」といった自覚症状のある患者さんは、黄斑浮腫、硝子体出血、牽引性網膜剥離などの病状を医師から説明されるので、自分の網膜症の病期を比較的理解しやすいのですが、自覚症状のない時期ですと、たとえ網膜症がじわじわと進んでいても気づくことなく受診が遅れてしまいます。
 今回のアンケート調査をきっかけに患者さんが、①網膜症病期メモを携帯し、②再度見ていただいて、「自分の眼は今どういう状態で、もしも放っておいたらどんなことが起きるのだろう」と想像してもらう機会になり、③「早く発見して治療ができれば進行を抑えることもできる」「じゃ内科と一緒に眼科も」と、思っていただけたら幸いです。



  糖尿病センターからのお知らせはこちらをご覧ください。

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