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第45回全国糖尿病週間(11月9日~15日)が近づいてきました。今年の糖尿病週間のテーマは「糖尿病と闘うシンボル ブルーサークル」と決まり、11月14日の世界糖尿病デーを中心に、全国各地で糖尿病の予防・啓発をめざしたさまざまな活動が展開されます。
◆ 糖尿病と闘うシンボル ブルーサークル
日本糖尿病対策推進会議を中心とした実行委員会では、今年も東京タワーなどのライトアップを計画しており、ブルーサークル活動はますます大きな輪を広げつつあります。東京では日本糖尿病協会東京都支部の恒例の九段会館での講演会のほか、昨年から始まった東京都庁のライトアップが行われることになっています。さらに、新たに今年はレインボーブリッジのライトアップも企画されています。
東京都では、糖尿病の有病者・予備群を減少させるため、糖尿病についての正しい知識を広め、健康的な生活習慣の必要性や健診受診・早期治療・治療継続の重要性について啓発する講演会を「本当は怖い糖尿病―知っておきたい予防と治療」をテーマに、11月16日(月)に品川区立総合区民会館で開催いたします。講演会のプログラムは、本誌4頁のお知らせ欄に掲載いたしましたが、「糖尿病はどんな病気? なぜ怖い?」と題する基調講演(岩本)の後、「糖尿病―予防と治療のポイント」と題するパネルディスカッションがあります。パネリストとして、糖尿病専門医、糖尿病療養指導士(管理栄養士)、保健師そして患者さんをお招きして、それぞれの立場から、わかりやすいお話をいただきます。さらに、特別講演演者には、服部幸應先生(服部学園理事長)をお招きして「食育のすすめ―大切なものを失った日本人」と題するご講演があります。
◆ 糖尿病予防講演会(東京都)
◆ 日々糖尿病と闘うことの重要性 糖尿病は慢性の病気、全身の病気という厄介な特徴をもつ疾患です。糖尿病が年々著しく増えている現在、「全国糖尿病週間」の折に学んだ知識を日々実践することによって、糖尿病と合併症を予防し、糖尿病を克服し、糖尿病の合併症に苦しまないようにと願っています。
インスリングラルギン(商品名:ランタス)は、ヒトインスリンを構成する51個のアミノ酸のうち1個の置換と2個の追加にて合成された持効型溶解インスリンで、日本では2003年12月に承認されました。作用時間が約24時間と長く、夜間の低血糖を起こしにくい特徴があり、1型糖尿病における基礎インスリンの補充や2型糖尿病における経口糖尿病薬との併用(BOT療法)など幅広く用いられています。ただし、in vitro 実験系において IGF-1 受容体に対する親和性や細胞増殖作用が強いという報告があるため、がんの発症や進展を助長する可能性が懸念されてきましたが、臨床治験や市販後調査においてはがんとの関連性については認められませんでした。
◆ インスリングラルギンと細胞増殖作用
ところが、インスリングラルギンの投与量が多くなるにしたがってがんが発症しやすくなるというドイツからの報告がヨーロッパ糖尿病学会誌(Diabetologia)に発表されました。この結果が本当ならば糖尿病の治療に大きな影響がありますが、調査方法の信頼性にやや問題があることから、より綿密な調査が世界の各地域で行われました。その結果、一部の後向き試験でがんとの関連性を疑わせる成績があるものの、より信頼性の高い前向き試験を含む多くの研究では、インスリングラルギンと他のインスリンの間でがんの危険性に差がありませんでした。
◆ インスリングラルギンとがんに関するさまざまな調査
明確な結論を得るためにはさらに大規模臨床試験が必要ですが、現時点ではインスリングラルギンががんを発生させる証拠はない、というのが多くの専門家の見解です。
それでは、実際にインスリングラルギンを使っている方に対してはどのように対応したらよいでしょうか? 単にインスリングラルギンの注射量を減らしたり使用をやめたりするのは絶対に避けるべきです。血糖コントロールが悪くなってしまえば、感染症や糖尿病性合併症の危険性が明らかに増加してしまい、それはがんの危険性よりずっと高いと思われます。
◆ インスリングラルギンを使っている場合の対応は?
しかし、何らかの不安の訴えがある場合は、十分に説明していただくことが必要です。他の持効型溶解インスリンや中間型インスリンへの変更も選択肢のひとつと思いますが、インスリングラルギンを用いて良好な血糖を維持されている方は、納得の上使い続けられる方も多いようです。
がんは日本人の死因のトップである疾患です。糖尿病自体ががん発症の危険因子であるという報告もあります。しかし、糖尿病がある方は1~3カ月に1回は通院しているのですから、がんの早期発見のチャンスが多いとも言えます。糖尿病の治療というととかく血糖コントロールと合併症だけに目が奪われがちですが、がんの可能性も念頭に置きながら、ささいな体の不調の訴えについても十分に耳を傾けて診療することが重要と思います。
◆ 日本人死因のトップはがん
なお、インスリングラルギンに関する最新の情報は日本糖尿病学会(http://www.jds.or.jp/)や日本糖尿病協会(http://www.nittokyo.or.jp/)のホームページに掲載されていますので、是非ご参照ください。
今は使用したい時に簡単に使用できるインスリン製剤ですが、わが国においてインスリン製剤が比較的容易に入手できるようになったのは、たかだか60年前で、1950年代後半です。入手可能となって、1型糖尿病は"生存可能な病"としてやっと認識されるようになりました。そして今日では、1型糖尿病は"長期間生存できる疾患"と認識されています。
これまで小児期発症1糖尿病の診療は血糖コントロールの正常化、合併症に対する予防・治療に到達目標がおかれていました。その結果、合併症を発症することなく成人した1糖尿病患者さんが多く誕生し、社会で大いに活躍する時代になりました。
◆ 50歳になった1型糖尿病患者さん
そうした患者さんの中に、これまで未踏だった50歳を超える年齢に達した人達が現れ始めました。日常生活には問題ないのですが、意識障害を伴う重症低血糖を頻回に起こすようになってきています。
原因として、糖尿病性自律神経障害の影響が考えられます。また、女性ではインスリン拮抗ホルモンの1つである女性ホルモンが、更年期にさしかかって分泌が低下したことも大きく影響していると思われます。さらに、あっさりした食べ物の摂取が多くなる、油物摂取が少なくなるといった食べ物の好みの変化も考えられます。女性だけではなく男性においても重症低血糖を認めています。
◆ 重症低血糖が頻回に
いったん重症低血糖を起こしてしまうと大量のカロリー摂取をすることになります。特に夜間に重症低血糖を起こすと、その影響は多大です。このように重症低血糖を頻繁に繰り返し起こすことにより急激に体重が増加し、突然死や急性心不全を引き起こす危険性もでてきました。
◆ 低血糖後の糖分大量摂取による危険性
重症低血糖を起こさないようにするにはどうすれば良いのでしょうか。糖尿病性血管合併症の予防および進展抑制対策には、良好な血糖コントロールに勝るものはありません。しかし、罹病期間が40年~50年を超えるような1糖尿病患者さんの HbA1Cの目標値を6.5%未満にするのは重症低血糖を引き起こすリスクを高くしてしまいます。HbA1C7%を目標にするのも1つの方法ではないでしょうか。
◆ 重症低血糖の予防は
また、重症低血糖を起こし始めたらインスリンの減量を考えるのは当然の手段です。しかし、患者さんへの説得がとても大切になります。長年血糖コントロールをよりよい状態に維持してきた患者さんはインスリン注射量を減量することにとても抵抗があるからです。
小児期発症1糖尿病は長期間生存できる疾患となりましたが、50歳を迎える頃から重症低血糖および体重増加をきたして致死的状況に至ることもありますので、個々に応じた注意深い血糖・体重コントロールが必要です。
◆ 長期罹病糖尿病患者さんを診療する際の留意点
また、1型糖尿病に限らず長期間の罹病歴を有するインスリン治療中の患者さんにおいても、重症低血糖や急激な体重増加をきたさないよう管理していくことが大切です。
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