第15回(2005年)東京女子医大糖尿病センター ヤングセミナーを終えて
糖尿病治療に関する情報を患者の皆様にお知らせするために毎年開催している「東京女子医大糖尿病センター ヤングセミナー」。今年も7月18日に行いました。そのときの講演内容の要約を紹介します。
講演1:糖尿病と心疾患
東京女子医科大学糖尿病センター 佐藤 麻子 先生

 糖尿病の慢性合併症の一つに心疾患、特に心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患が挙げられています。米国のフラミンガム研究では糖尿病では、糖尿病のない患者さんより虚血性心疾患の発症率が男女ともに効率であると報告されました。欧米では糖尿病患者さんの死因の第1位は虚血性心疾患を中心とした心疾患死です。日本では、悪性腫瘍に続いて死因の2位3位で経過していますが、ライフスタイルの欧米化により今後増加していくことが予想されます。また、糖尿病性腎不全で血液透析をしている方では心疾患は高率であり、生死にかかわる重要な疾患といえます。


 糖尿病では非糖尿病患者さんと比べて虚血性心疾患の程度が重篤であるのが特徴です。心臓に栄養を運ぶ3本の血管、すなわち冠状動脈の狭窄が1箇所ではなく数カ所に及んでおり、治療方法が狭まったり、冠動脈の拡張をしても再狭窄の率が高くなったりします。また、無痛性心筋虚血といって、胸痛等の自覚症状がなく、心筋梗塞になっても気が付かないケースもあります。これらのことから糖尿病があると心筋梗塞後の予後は不良です。


 心疾患の成因としては血糖値が高いと心筋細胞の肥大と間質の線維化が生じて左室拡張機能の低下が起こったり、組織のレニン・アンギオテンシン系ホルモンが活性化され心肥大が起こりやすかったり、動脈硬化が進展しやすい、心臓の自律神経が障害をうけ不整脈が生じやすくなるなど様々な要因が指摘されています。特に心臓肥大については虚血性心疾患の独立した危険因子として認められていますが、体重増加や血圧の上昇、1型糖尿病では腎症を合併すると進行します。心臓のポンプ機能(拡張機能)については当センターのデータでは、1型糖尿病では2型糖尿病に比べて経過が非常によいことがわかりました。特に HbA1Cが良好であるほど、機能を維持できると報告されています。


 糖尿病治療の目標は合併症を予防し、糖尿病ではない人と変わらない日常生活を維持し、寿命を確保することです。心疾患の早期発見と予防のためには年に1回は心電図検査と禁煙。また、HbA1Cを6.5%未満、総コレステロール200 mg/dl未満、中性脂肪120 mg/dl未満、LDLコレステロール120 mg/dl未満、BMI(体重÷身長2) 23未満、血圧130/80 mmHg以下にすることです!



講演2:糖尿病と移植
東京女子医科大学糖尿病センター 石井 晶子 先生

 インスリン分泌が枯渇した1型糖尿病に対する根治治療として膵移植、膵島移植、再生β細胞移植があります。膵移植は世界でも2万件をこえており、日本でも37例行なわれていますが、臓器提供が少ないため欧米諸国と比べると伸び悩んでいる状況です。日本での膵移植は膵腎同時移植、腎移植後膵移植、膵単独移植に分類されます。膵移植の適応としては臨床的に腎移植の適応があり、内因性インスリン分泌が枯渇している症例、または糖尿病認定医によるインスリン等の治療手段によっても血糖が不安定で代謝コントロールが悪い状態が長期に続いている1型糖尿病症例とされています。60歳以下で他の活動性の疾患がない場合に登録できます。


 女子医大では1990年12月から2005年2月まで14人(男7女7名)の方が膵移植をうけています。全例腎不全を合併しており、腎移植もうけています。それらの方々の平均糖尿病発症年齢は11歳、透析開始年齢が29歳、膵移植年齢が34歳です。血栓や拒絶反応などで移植した膵臓が機能しなくなった症例もありますが、最長で移植後13年経った現在でも移植膵が完全生着し、インスリン療法から離脱している方もいます。また、部分生着でもインスリン注射の回数や量が減量でき、血糖コントロールしやすい状況になるので、HbA1Cは改善します。膵移植後には神経障害や網膜症、腎症、心機能、動脈硬化が改善するとの報告もあります。


 約3000~4000名が膵腎同時移植の適応があると推定されますが、2005年6月現在登録中の方は膵腎同時移植が109名、膵単独移植が15名です。臓器提供は1年に2-3件であることを考えると、移植するまではかなりの年数がかかることが予測されます。また、あくまでも外科手術なので、全身麻酔による影響や出血や感染などの術後合併症、免疫抑制剤の副作用なども問題点として挙げられます。


 次に膵島移植ですが、ドナーの膵臓から膵島を分離し、局所麻酔下に糖尿病患者さんの門脈に注入することで肝臓に膵島を生着させる方法です。2000年にエドモントンプロトコールという方法で、1年インスリン離脱率80%という良好な成績が報告され、日本では2004年4月に京都大学で初めて行なわれました。その後も10数例の方が膵島移植を2、3回うけ、数名がインスリン療法より離脱しています。2005年1月には母の膵臓から娘に膵島移植を行い、世界初の生体膵島移植成功例として注目されています。しかし生体移植については健康なドナーに対する外科手術に伴う合併症や糖尿病を発症するリスクを考慮しなくてはなりません。膵島移植の長期成績は不明な点も多く、移植膵島の減少や機能低下から再度移植が必要になるのが現状です。


 移植医療は亡くなった方をはじめ臓器を提供して下さる方の善意の上に成り立つ治療法です。勿論、移植をうけた患者さんの QOL は改善し、素晴らしい治療法ではありますが、ドナーの安全性が100%保証される治療法ではありません。ですので、移植の適応は充分考える必要があると思われます。移植を待っている方々も、まずインスリン療法で血糖コントロールをしっかり行ない、いざ手術を行なうときに動脈硬化などがないよう管理していくことが重要です。


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